エピローグ

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 マンションは雪かきがないからいいよ、と笑った高校生のころのあやのを思い出しながら、ミナは高速の出口を抜けた。  それから少しばかり、ロードサイド店の続く大きな通りを行く。  普段東京の中心部で働いているあやのは、ミナからすればつまらないその通りにも目を輝かせている。広い道はいい。道が広いのはいい。そんな言葉を横で聞きながら、ローカルチェーンの回転寿司屋に入った。  あやののリクエストで、その寿司屋に寄るためにこの通りを選んで走っていた。 「この店、ホテルの周りにもあるしょ」 「でもこういう平たくて広くて駐車場が大きな店が良いんだよ。中心部行ったらどこの店も小さくて、東京と変わらないもん」  そういうもんか、と道外に出たことのほとんどないミナは思う。  人気店であるが、ピークタイムの前だったためか三十分程度の待ち時間で済んだ。カウンター席でメニューを熟読するあやのに、カウンター上の天井に吊り下げられた季節メニューの筆文字を眺めながらミナは訊ねた。 「なんで今年のお盆は帰ってきたん?」 「まあ、休みとれたし、夏の北海道が懐かしいのもある」 「やっぱり仕事忙しいんだ」 「ブラックではないけど、それなりかな。やっぱり一年目は必死だったしね、あっちでやりたいことも沢山あったから。大学時代も、夏休みは遊びたおすのにいっぱいだったし。暑さだけは参るけど」  こぼれイクラ! とあやのが頼んで、初手からかよ! というツッコミは店員の威勢のよい掛け声でかき消された。  太鼓が打ち鳴らされ、こぼれイクラの名の通りじゃんじゃんとイクラが軍艦の上に乗せられていく。その間にミナの頼んだ、サーモン盛り合わせが出てくる。調理法の違うサーモンが三つ、一皿に乗っている。一貫ずつ頼むよりも、腹の容量を圧迫せずに色々食べられる。  車で遠くない場所に店舗があるとはいえ、改めて来ることはそう無いので自然ミナも気分が高まる。隣で皿の上に盛大にこぼれているイクラ軍艦も、その高揚に拍車をかける。 「やー、今日は好きなものばっかり食べるぞーと思ってさ」  大口で軍艦を頬張る直前に、あやのは宣言した。
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