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空港で出迎えて以降、あやのがはしゃぎ通しなのが気になってはいた。突然、盆に帰省するという連絡を受けてからずっとあった懸念が、ことさら楽しげに振る舞うあやのを目のあたりにしてさらに深まる。
炙りサーモンを口に入れたら、わさびが舌の辛味を感じる部分にまともに当たって、ミナは急いで熱い茶を啜った。むせるミナに、口をいっぱいにしたあやのが表情だけで笑ってみせた。
互いに一皿目を終えて、今度は注文票を活用することにする。互いに違うのを頼んで分けようとか、予算オーバーするだとか、言い合いながら鉛筆で投票用紙のような注文票を埋めていく。
そのさなか、あやのがようやっと――とミナには思えた――切り出した。
「タイキがさあ、『見た』って言い出したんよ」
注文票の端の、水気でうねったところを睨んでいた。ミナも同じところを見た。
「そうかあ」
「それでね、絶対そんなこと学校で言ったりしないでねって言ったの」
「どういう流れで言い出したの?」
「んー、世間話中だよ。今度パパに新しいバット買ってもらうとか。うちは毎日残業だよとか」
あやのが店員に声を掛けて、注文票を渡す。
首をひねって向こうをむいた顎の下、ファンデーションからうっすらニキビの凸凹が透けていた。
「嘘つきは大変なことになるからね」
「そう。嘘とまでは断定しなかったけど、見えるなんてそんなこと、言わない方がいいよって。言ってるとずっと見え続けちゃうよって、伝えておいた」
帰省の理由が分かった。弟の周りが気になったのだろう。
同時に、家族の仲は端から見れば悪くなさそうなのに、わざわざホテルをとったのも、なにか思うところあってなのかもしれない。そう考えてから、踏み込みすぎていることを自覚してすぐに打ち消した。
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