エピローグ

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   運転席に乗り込んでシートベルトを締める際に、普段ならばほとんど感じない微細な窮屈さを感じる。食べすぎた、と思った。 「ホテルまで行っちゃうけど、中学の前とか通る?」  うーん、とあやのが、こちらも食べすぎて苦しいといった声を漏らす。 「いらないや、うちらが居た時から随分変わったみたいだし」 「きれいになったよ。グラウンドも広くなったし、弟くん思い切り野球出来るよきっと」 「そうだね」  中学に寄らないとなると、ひたすらに大きな通りを行くだけだ。  単調なドライブ、というよりミナからすればいつもの通勤経路に近いのだが、あやのは懐かしげに街を眺めている。 「そういえばね、萌加いたでしょ。いま気象予報士になってるの。ラジオで気象通報とか読んでるよ」 「気象通報?」 「地学の時間にやらされたしょ、風向とか風力とか聞いて天気図に書き込まされるの」 「あー、やった。あのラジオの声? すごいね、気象予報士って難しいんでしょ?」 「そう、たまにね、聴くよ。変だよね。ただ風向、風圧、低気圧、とか呪文みたいに流れるだけだなのにね」 「でもまあ、分かるなあ。知ってたら、うちも聴くかも」  言葉のちからに向き合って、観測結果を喋ることを仕事に選んだであろう萌加が、本当に安心して喋れることってなんだったのだろう。夜にラジオから聞こえる淡々とした声を聞きながら、考えることがある。  その声は少なくとも多くの人を助けていて、そしてミナの安眠も誘う。 「それって今は流れてないの?」 「時間が決まってるからね。これから聴くなら二十二時の回かな」 「それなら飲みながら聴こうよ。どうせご飯の後飲み行くでしょ」 「そうだね、じゃ、後でまたね」  ホテルの前につけて、あやのと別れる。  今日はあやのと夕飯も食べる予定だが、アルコールを飲むためには一旦車を置いてから電車で来なくてはならない。帰宅して、着替えて、シャワーを浴びて一回寝て、それから化粧してちょっとお洒落して……。  考えているうちに誤って左折専用レーンに入ってしまっていて、ミナはこれからの大回りを思ってため息をついた。
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