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旧校舎に通いたかったとは思わないが、そんな噂話にはしゃいでは「見た」「出た」と言い合えるのは、いかにも長閑な青春という感じがして、羨ましい気持ちもあった。そんなわけで、ミナは授業中に、つい旧校舎を眺める癖があった。旧校舎が好きだったと言ってもいい。
蔦が咲かせた小さな白い花の連なりが、ぽこぽこと顔を出し始めている。多くの花をつけすぎて、重みでしなりながらも空に伸びている。蔦は壁を厚く覆うようにして繁茂していて、建物のぬいぐるみがあったらこんな感じだな、というシルエットになっている。盛夏に向かうにつれて白い花はどんどん増えていき、真夏は建物全体が雪に覆われたようになる。ナツユキカズラという名の通りだ。
夏休みに入って早々、ミナを含むいつメン五人は行き先に往生した。イオンも飽きたし、互いの家の行き来もそう頻繁にしては居られない。図書館は会話が出来ないし、まだ宿題に手をつけるという時期ではない。手をつける口実が出来てから嫌というほど行くと分かっている。
夕方になれば涼しいので公園でだらりと過ごすのも悪くないが、日中はどうしようもない。仕方なしに郷土資料館で涼むことになった。郷土資料館を提案したのはミナだ。元が軍都であったこの地域の資料館には、旧陸軍の資料が沢山展示されている。入館無料で人が少ないというところがポイントだった。
「戸川はこういうの詳しいのよな」
軍服を着たマネキンがおさめられたガラスケースを覗き込みながら言うのは、和久井裕太だ。曇ったケースに映る裕太の顔を見ながら、ミナは曖昧に頷いた。
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