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「旧校舎好きって言ってたもんね。私には不気味にしか見えないけど」
転校してきたばかりの馬渡小枝子は、教室から旧校舎が見えるのが未だに落ち着かない、と続けた。ミナは旧校舎が好きというよりも建物のまとうロマンチシズムが好きなのだが、それを説明するのは恥ずかしいので黙っていた。
「長く居られるのもいいけど、何見て良いのか分からない。こういう銃とかも、余計怖い想像しちゃいそうでよく見られないし、うちは苦手。だってここだって昔の軍隊の建物なんでしょ。どうする? 夜な夜なマネキンが……」
「あーやストップ! そういうの、不謹慎ってやつだと思う! そりゃあ歴史的に色々あるけどさあ、それで亡くなった人をすぐ霊にするのって失礼だよ!」
あーや、と呼ばれた奥原あやのをたしなめる形で放たれた茅原萌加の声が甲高く響く。入り口近くに座って話すでもなく水を飲んでいた二人の老人がこちらを見て、歯の隙間からシッとチッの間の、空気を射るような音を出した。
萌加は何も気にしないふうで、低いガラスケースの前にしゃがみ込むと展示された歩兵銃と見つめ合っている。
「生きている人間が一番怖いってよく言うじゃん! モノ自体が怖いなんてないし、ずっとむかしに死んだ人に勝手に怖いイメージつけるの良くないって。そんなの本当の兵隊さんと違うじゃん、嘘だよ」
「もえは嘘が嫌いだもんね」
「そういうこと! 言霊っていうのがあるからね、言葉は大事にしなきゃだよ!」
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