1話

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 興奮してますます高くなっていく萌加の声を押さえつけるようにあやのが声を重ねるが、萌加の声はそれを突き破って天井まで突き刺さらんとする。老人たちが声を潜めて何ごとかつぶやき合うのが、内容までは聞き取れないが微細な空気の振動で伝わってきて、五人は萌加の背を押すようにして奥の開拓時の道具コーナーに移動した。  五人は涼しい場所を探して猫のように移動し続ける。  気温の下がる頃合いでやっと公園に移動した五人は、生い茂った葉が濃い陰を作る藤棚の下のベンチに居た。この公園も、先の資料館で見たところ、射撃訓練場だったらしい。だだっ広い公園は、土地の余った北海道の狂った遠近に従って、ただ広いだけかと思っていたが、今では歴史由来の理由を知っていしまっている。日の長い北海道の夏の夕方。涼しい風が吹き抜けて、のんきに犬の散歩をする人々が絶えず往来するその景色に、白黒の航空写真が重なって、ミナはまたうっとりと場に浸っていた。 「来週の花火大会、アツシ先輩に誘われちゃった!」  萌加の言葉にミナは現実に引き戻された。 「アツシ先輩って、ずっともえが推してた人じゃん」  ミナが前のめりになって返すと、萌加は大袈裟に両手を顎の下で組んでみせた。 「だよー! 卒業してからもおっかけ続けてんだけど、ついに向こうから花火行こって! ヤバない?」 「来週の花火って山の方のだろ? 霊園の先の。夜にバスで行く感じ?」  裕太がそれなりに調子をあわせて返すが、目線は手元のスマホゲームに注がれ続けている。 「あそこも結構出るみたいな話あるよね、ライトアップとかもあるらしいから盛り上がるんだろうけど」
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