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一人置いていかれる不安が頂点に達したところで、ミナはLINEのアプリを開いた。いつメン、とあるグループラインの未読が23件溜まっているが、そちらは無視して、あやのの個人アイコンをタップした。
会話画面を開いてから、ミナの指は止まった。
自分はいったい何を訊ねようとしているのか。整理して文字におこそうとしてみると、独りよがりの、傲慢な気分をぶつけるだけになってしまう。あやのは芯から困っていそうで、それを支えたいという言い訳が無いではないけれど、でもアプリを開く契機になったのは置いていかれたくないという不安でしかないからだ。
――弟くん可愛いね お世話大変だよね 今度会いたいなー! 抱っこしたい!
まずそんな文章を送った。既読が付く前に、もうひとつ送る。
――名前は誰が考えたん? かっこいい名前だったよね
命名書にあった漢字は覚えていないけれど、あやのが発したタイキという音はかっこいいと素直に思った。同時に、名付けにふれることであやのの家庭の話に広げられるかもしれないという、姑息な考えもあった。
――かわいいよ。いま抱っこで寝てる。
画像が送られてきて、そのすぐ後にメッセージがあった。細い膝頭であやのの脚とわかるそこに、想像の半分くらいの大きさの赤ん坊が眠っていた。頬の産毛が脂で光って、口元にはミルクのあとがついている。
――名前はうちとパパ。うちのときにはママがつけたから、順番なんだって。
笑う絵文字がついて、軽い調子で送られたメッセージの内容は、やっぱり「いい家族」のそれだ。
――めっちゃ幸せ家族って感じする!
ニヤリと笑う顔文字をつけて返信してみた。完全なカマかけで、親友にそんなことをしているのに嫌気がささないでもないが、自己破滅的な気持ちよさもある。既読がついて返信を待つ間、ミナは自分が興奮しているのを感じていた。
マイメロが「わら」と言っているスタンプが返ってきて、続いてメッセージがあった。
――明日抱っこにくる? 大毅と遊んでくれるとママも多分嬉しいと思う。
何かを話そうとしてくれている、とミナは直感して、おそろいでプレゼントしあったマイメロのスタンプの「よき」という泣き笑いの顔を送り返した。既読がつくのを眺めながら、タイキの漢字は難しいなあと思っていると、ちいかわのうさぎが「ヤハッ」と言っているスタンプが返ってきて、その日のやり取りは終了になった。
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