RE:『あぎょうさんさぎょうご』

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 きっかけは多分、結婚して、子供が産まれたからだと思います。  この前久々にあの音がして、ああまたかってウンザリしたんですけど。  気付いたら包丁を握り締めて立っていたのは、親父じゃなくて、僕だったんです。  足元で遊んでるのは、僕の子供。  まだちっちゃくてカワイイ、絶対に傷付けちゃいけない存在。あぶあぶ言いながらお気に入りのボールで遊んでる。  包丁片手にその背中をみてたら、ああ、そういう事かって、僕、分かったんです。  いや、なんとなく思ったんですよ。ほら、夢って深層心理がどうとかいうじゃないですか。  きっと、覚えてないくらい昔に、さては親父が何かやらかしたんじゃないかなって。  例えば、赤ん坊の僕をお風呂に入れてて、手が滑ってお湯の中に沈めちゃったり、人肌ってのがよく分かんなくてちょっと熱めでミルク飲ませちゃったりとか。  で、親父がやらかしたなんかそういう失敗を、僕の方は脳みその奥の方で覚えていて、親父は危険な人間だから近付くなって、夢が脅してたのかなって。  え?あはは、実はそうなんですよ。  目覚まし時計の電池交換してたら、子供が口ん中いれちゃって。  今までそんな失敗なかったんで、妻にすごい怒られちゃいました。  それで分かったんです。お前親父と同じじゃないかって、もうやらかすなよって、ちゃんとしろよって、気を付けなきゃダメだぞって、夢が教えてくれたんだなって、分かった。  で、まあ、とにかく納得したら、なんかすごく親父に悪い事してたなって思ったんです。  今度謝らなきゃなあって、そんな事考えてました。  そこからはいつもと同じです。 いつもと同じ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピピピピピピ…って、ね?  そしたら僕は『あぎょうさんさぎょうご』って唱えます。  ハッと我に返って、汗びっしょりで、息も荒くって。  あはは、だから言ったでしょ?これはウソのお話なんです。全部ウソ。ウソのお話。ねぇ?
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