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月に基地ができてもうだいぶ経つ。
UN主導の月面仮想都市演算基地K-UN。
晴れた夜空に青白い上弦の月が見えた。
「増員が配置に着きました」
深夜二時過ぎ。
青白い月の照らす五階建ての建物をFICの実行部隊が囲んでいた。
「突入3分前」
建物の包囲網と、侵入経路、突入経過イメージを最終確認する。
「所轄の仕事なんじゃないですか」
「演算器端末は特別なんだよ」
「只の窃盗では?」
「フォワード、突入します」
スライム状の消音塊をシャッターに付ける。
四人一組のチームが下りているシャッターを上げる。
大した音も無くシャッターが上がる。
フォワードの一人が合図する。
「F2、突入します」
「F3、突入――」
指揮車の中から「敵襲!」と言う声が上がる。
建物の入り口から黒く透き通った脚が伸びて来た。
「幻影(マーヤー)か?」
「発砲許可を」
異物の脚に麻痺弾が撃ち込まれる。
よほど硬い脚なのか弾が跳弾する。
吸盤の有りそうな脚はイカかタコの脚のようだった。
「実体なのか」
「フォワード視界を回復」
真っ暗だった建物に灯りが点く。
「分断されました」
「化け物の出現経路は?」
「不明、です」
気を付けろ、と言われていたのを思い出した。
「其処までだ」
演算器端末にVR入力していた男のこめかみに金属の筒を突き付ける。
「そうだな」
実行部隊の後頭部に、金属塊が突き付けられる。
「が、其処までだ」
フォワード二人が賊の一人をおさえ、セカンドがもう一人を含むその場を制圧した。
中の賊は取り押さえたが、化け物は依然として2チームの帰還を阻んでいた。
「未だ、居るのか?」
包囲している4チームの索敵範囲に敵は居ないはずだった。
「描写空間、か」
ポケットから携帯端末を取り出す。
「向こうの方が、早いな」
賊の一人は取り押さえた。
演算器端末は既にフリーズしている。
もう一人以上いる賊は半径100m以内に居ないらしい。
FICは演算器に依る索敵を実行している。
多分未だ見つからないだろう。
対策を立てても、隙を見ては再起する賊。
簡単には尻尾を出さない。
寧ろ化け物を登場させているこう言った時こそ叩き時だろう。
文章を打ち終えて、リターンキーを叩く。
既に組んであるオブジェクトが呼び出された。
以降の処理を自動実行し始める。
空中に出現した銛が軟体生物もどきを突き刺す。
ビルの屋上、現場を鳥瞰する位置に居た敵が苦鳴をもらす。
FICの実行部隊が直ぐに取り押さえに上がる。
黒い軟体生物もどきが霧消する。
「おしまい。」
溜息を一つついて、夜空を見上げた。
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