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「『怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』……ってね」
ミイラ取りがミイラにならないように精々気を付けて下さいな。
挑発なのか、警告なのか……男は三つの丸いピンのような小型機器を瓶の上に乗せた。どうやらそれは、変声機のようでーー黒狐面の
男がそれを手に取り、まじまじと観察している。
「随分とサービスがいいな。称賛に値するよ」
「まぁ、アンタ等みてぇのは嫌な客でありながらも扱いだけには慣れてるもんで……」
「それは難儀な話だこと。だが、此方がそれに付き合う道理はない」
これは返すよ。盗聴器を仕掛けられていたら堪ったものじゃないからな。
黒狐面はふっと笑い、持参したネックレス型の変声機を仲間の二人へと渡した。その用心深さと手前勝手さに、男が嫌悪感を露骨に態度へと出す。
灰皿にも入れず、床に落とされぐりぐりと踏まれた煙草。白煙がゆっくりと闇へと溶けていった。
「他に説明や忠告は?」
「ねぇよ。激しくし過ぎてウィッグや面毟り取られねぇようにって位だ」
男が不機嫌そうに呼び鈴を鳴らす。すると、先程見たような黒子姿の男が忍のように何処からともなく現れ、狐面の男達の前に跪いた。
そうして、差し出された黒塗りの丸盆。その上には右から順に、黄、緑、赤と色付けされた三つの鍵がある。
「黄色が姫蛍、緑が平家蛍、赤が源氏蛍の扉の鍵でございます。好みの蛍をお選び下さい」
「そうか」
黒狐面の男は迷う様子もなく、さっと源氏蛍の鍵を取った。しかし、その即決具合に両隣の男達は続かず。
「えぇ~っと……源氏蛍が一番人気で、平家蛍が今年売り出しの新人で……」
「姫蛍がNo.2だな」
「はぁ……」
「じゃあ俺新人でいいや」
朱狐面が平家蛍の鍵を取り、白狐面は気後れしながら姫蛍の鍵を取る。そうして変声機を首に掛け、狐面の男達は瓶を手にして。
「案内致します。どうぞ、足元に注意しながら此方へ」
黒子が導く暗闇の先へと、足を踏み入れたのだった。
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