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「可愛い可愛い白ギツネさん。お名前は?」
はだけた薄水色の浴衣。その胸元、豊満な肉付きばかりに目が行ってしまいそうで、無邪気に綻んでいる顔を直視出来ない。それに、神社で出会った時とは全く違った彼女の雰囲気。彼はその如何ともし難いギャップに頭を混乱させられるばかりだ。
「ふっ、風雅っす……」
「ふうがさん?」
「はいっ……風雅でいいっすよ」
「ふうがくん?」
「ん……貴女の好きに呼んでくれて構いません」
「じゃあーー」
ふう君ッ!!
思い切り抱き付かれ、情けなく跳ねた肩。肌に密着する女特有の柔らかさと、散るシトラスシャボンの香りに情欲を刺激され、理性が乱される。
(どうしたらいいんだよ、これ……)
逆らえない本能。嫌でも女へと視線が落ちてしまいーーけれど。そうして目の当たりにした彼女の姿に、風雅の抱いていた淡い期待はぶち壊された。胸に刻まれた幾つもの傷痕。見てるだけでも痛々しくて、自然と視線が逃げていく。
「瓶の蛍……放して?」
「えっ、放す……?」
「うん……そうしないと、死んじゃうよ?」
彼女は風雅から瓶を取り、蓋を開けた。すると、窮屈そうに蠢いていた蛍達が瓶を飛び出して行き、部屋を飛び交い始める。その光景は正に幻想的で、此処が室内である事を忘れさせる程だった。
風雅はそれに見惚れながらも、息を呑む。すると、手に触れた感触、するりと絡められた指に跳ねた鼓動。
「行こ?」
「行く? どこにです?」
「ついてきて」
蛍を放してしまった事により、散ってしまった光。故によく見られない表情。彼女の誘導に身を任せ足を進めれば、天井から吊るされた蚊帳があり、その中には大きな布団がひとつ、敷かれていた。
「入ろ?」
「いっ、いやいや……」
「何もしないよ。大丈夫」
「あの、それは俺の台詞ですから!」
「えへへっ……じゃあ一緒に入ろっか」
展開が早過ぎる。なんて正論。ここでは通用しないのか、ヒメは風雅を半ば強引に蚊帳の中へと招き入れた。
「座って?」とねだられ、渋々腰を下ろせば。
「一緒にまったり脱力しよお~」
胡座をかいたその膝に、頭を乗せて。ヒメは甘える猫のように風雅に絡みつく。
蚊帳に張り付く無数の蛍。ぼんやりとした明かりの中で浴衣は先程よりもはだけて、劣情を煽り立てるような姿が彼の真ん前に転がっている。
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