悪い子ちゃんな理由

4/10
前へ
/336ページ
次へ
「……お酒、飲んでみる?」 悪魔のような、天使のような。蠱惑的な微笑が風雅を存分に魅了して。 「駄目だよ。酔ったらヒメに何しちゃうか分からないから」 「ふぅ~ん。変わった人……」 どうにかなっちゃえばいいのに。 嫌に無機質な表情を置き去りにして、彼女は蚊帳を出て行く。そこに刻まれた杞憂。風雅は溜息をひとつ溢して、布団へと寝転んだ。 (ちゃんと任務遂行出来るのかな、俺……) そんな彼の心境など読める筈もない、読む気もないであろう彼女が二本のお茶を抱えて戻って来る。 起こした上半身。渡されたそれを風雅が飲めば、彼は自分に当てられる強い視線に気付き。 「なに?」 くすくすと肩を震わす彼女に、またも困惑させられる。 「こんな時期に仮面なんてして……暑くないの?」 「暑いよ」 「だったら取っちゃえばいいじゃん」 「それは駄目」 「何で?」 「先輩達にこっぴどく叱られるから」 「そっかぁ~……大人でも叱られるのは嫌だもんね」 「うん、嫌だね。俺の先輩、怖いしさ」 「ふう君、可哀想。こんなに暑いのに……」 こてんと肩に凭れかかって来た重みに、折角取り戻した平常心を揺さぶられ。彼はまた、彼女に鼓動を遊ばれる。 駆け引きなんてするつもりもなければ、されるつもりもない。だって、これはれっきとした仕事だ。そして、彼女もきっとそうで。 それならば、手を出すつもりなんて微塵もなくてーー彼は真面目で誠実な男だ。ついでに、女遊びは愚か、女そのものに慣れていないらしい。
/336ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加