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「ねえ、許せないことってある?」
「唐突だな?」
「今回のお題だから」
「レイは無いの?許せないこと」
「無いから聞いてるんじゃん」
「は?ないの?全く?
怒ってむかついて、
ずっと気になっていつまでも許せない、
とかあるっしょ」
「だって、
許そうが許さなかろうが同じ。
何も変わらなくない?
例えば“お前を許さない”って言われたって、
ああそうですかって感じ。
だからこっちからも、
そんなこと言わない」
「ああそうですか、とはならんだろ。
俺なら許してもらえるようにするけど」
「なんでわざわざ、
許してもらう必要があるわけ?」
「いや、
そのせいで避けられたり、
嫌がらせされたりしたら困るだろ」
「それは許す許さないじゃなくて、
過去のことを理由に、
なんか不当なことをしてくる相手が悪い。
関わらなければいい」
「逆恨みの場合はそれでいいけど、
自分でも自分が悪かったと思うなら、
謝って相手に許してもらいたい」
「自分の罪悪感を消すために、
相手に許しを求めるわけ?
自分で自分を許せないから、
相手に許してもらうんでしょ。
相手が許すこととは関係なくなってる」
「結局自分の問題だって言うのか」
「なんだってそうでしょ。
自己犠牲も自己満足でしかない」
「許しを求めることが自己満なら、
自分が相手を許すことは?」
「イコール諦め。
こだわるのが面倒くさくなっただけ。
相手の諦めで自分の罪悪感が消せるなんて、
おめでたいわ」
「そっちは許されたことも、
許したこともないのかよ」
「許されてると思うし、許してるよ。
諦められてるとも言う。
私も諦めてる。
いつも面倒くさがられてて、
私も面倒くさい。
他人相手にこだわるのが不毛だと思うだけ」
「…俺はレイに対して許せないことあるよ。
レイ相手に、不毛にこだわってるよ」
「え、なに、
借りてた漫画を古本屋に売ったこと?」
「ちげえよ。
買い戻したしもういいわ」
「ワイシャツを色物と洗濯して、
色移りしちゃったこと?」
「あれ気に入ってなかったし、違うって。
つかそんな、
替えのきく物のことじゃない」
「えー?
バカとかアホとか言ったこと?」
「さっきよりは近いけど、
バカアホ程度は俺も言ってるし気にしない。
そういうのじゃない」
「…許さないって感情が、
分からないんだってば」
「なら言うけど、
中学の終わり…」
「あ、いい。
この話終わり」
「おい逃げんな。
あの時やったこと、
許してねえよ」
「…私が自分で自分にしたことでしょ。
お前に関係ない」
「そうだよ…
そっちの言う通り、
許そうが許さなかろうが、
同じことだ。
俺がそっちになんかするわけじゃないし、
そっちが謝ることでもない。
とにかく俺が許さないって、
ただそれだけだ。
俺が許さないのも、そっちに関係ない」
「…こんな傷が、そんなに嫌だったの?」
「こら、傷ひっかくなよ」
「もうとっくに塞がってるよ」
「それ知った時、
一方的に捨てられた気がした。
周りの人のことも、
この世界のことも、
俺のことも、
レイはもう要らないのかって」
「…私が要らなかったのは、
自分だけだったんだよ」
「一生許さない」
「…もうしないって」
「許さない。
…レイのことだけは、
諦められないんだ」
「…不毛だな」
「レイ、泣いてるのか?」
「不毛だけど、
お前にだけは許してほしいって思った。
私のせいで傷ついたと思うのなら、
癒えてほしいって」
「この傷は、
一生消えないのに?」
「くすぐったい。
猫じゃないんだから舐めない」
「さっきひっかいただろ」
「別にもう痛くない」
「俺が痛いの」
「…ねえ、これはさ、
お前のせいじゃないよ?」
「なんでそっちが許すの」
「いつの間にか、逆転してる。
許す、許さないも、
許す、許されるも、
全部混ざってしまった」
「自分を許したくないから相手を許せない」
「…相手を許したいから自分を許す」
「許しは諦めじゃない。
治癒だよ。
癒えるから諦められる」
「ハジメはまだ癒えてない」
「その傷を見るたび思う。
許せないって」
「私を?自分を?」
「同じことだ」
終
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