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7.
「いやー、今年は負けちまったな東側」
花火が終わって駐車場へと向かう道の途中、柴本が端末の画面を点灯させた。
それを猫塚くんと一緒に覗き込む。ネット投票のためのウェブサイトのようである。
辺りに街灯はほとんどなく、星明かりも枝葉を伸ばした植木に遮られて真っ暗な中、ディスプレイの光は心強い光源になった。
「さっきの花火大会の? 勝ち負けとかあったんですか」
「おう。やっぱりこういうのがあった方が張り合いあるだろ」
投票総数からすると、かなり好評のようだ。ただ、その票の大半は西岸に入っているようだった。わたしと柴本、猫塚くんが住んでいるのは東岸だ。
「ボロ負けですね。東チームも悪くなかったけど」
「西岸が凄すぎたんだ。まぁ、おれも今回は西に一票入れたし」
容赦のない猫塚くんのコメントに、柴本は晴れやかな表情で返す。
「自分トコに入れなくて良かったんですか?」
「こういうのはグッと来た方に入れなきゃ意味ねぇだろ」
などと話すふたりを眺めながら歩いていると、不意に体がぐらりと傾いた。
暗くて石につまづいてしまったらしい。転んだときの痛みと衝撃に耐えるべく、ぐっと目を瞑る。
けれども、わたしの体は宙に浮いたまま止まった。柴本の太い腕が、わたし体を支えてくれていたのだ。
「怪我はねぇか?」
「大丈夫ですか?」
ありがとう。ふたりに返しつつ、体を起こしながら柴本を見る。50キロ程度あるわたしの体を片手で難なく支え、その間、少しも揺らぐことのない体幹の強さは日頃の鍛錬の賜物か。
諸々の発端となった数日前の言い争いを思い返す。腕力に訴えようとする場面は決してなかった。
きっと自制してくれていたのだろう。
「ひょっとして、暗くて見えていませんでした?」
猫塚くんの言葉に、獣人と人間の身体能力の違いに改めて気がつく。わたしから見れば真っ暗闇でも、彼らの視点では足元が分からないほどではないのかもしれない。
「あー、悪い! 気付かなかった」
謝られる話ではない。単にわたしが見えていなかったのだ。そんなことを返すか返さないかのうちに、左手を柴本に、右手を猫塚くんに繋がれた。
「これなら安心だな」
「そうですね」
小さな子供に戻ったか、はたまた秘密組織に連行される宇宙人になった気分だったけれど、悪くはないなと思った。
(了)
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