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「いやー、今年は負けちまったな東側」  花火が終わって駐車場へと向かう道の途中、柴本が端末の画面を点灯させた。  それを猫塚くんと一緒に覗き込む。ネット投票のためのウェブサイトのようである。  辺りに街灯はほとんどなく、星明かりも枝葉を伸ばした植木に遮られて真っ暗な中、ディスプレイの光は心強い光源になった。 「さっきの花火大会の? 勝ち負けとかあったんですか」 「おう。やっぱりこういうのがあった方が張り合いあるだろ」  投票総数からすると、かなり好評のようだ。ただ、その票の大半は西岸に入っているようだった。わたしと柴本、猫塚くんが住んでいるのは東岸だ。 「ボロ負けですね。東チームも悪くなかったけど」 「西岸(あっち)が凄すぎたんだ。まぁ、おれも今回は西に一票入れたし」  容赦のない猫塚くんのコメントに、柴本は晴れやかな表情で返す。 「自分トコに入れなくて良かったんですか?」 「こういうのはグッと来た方に入れなきゃ意味ねぇだろ」    などと話すふたりを眺めながら歩いていると、不意に体がぐらりと傾いた。  暗くて石につまづいてしまったらしい。転んだときの痛みと衝撃に耐えるべく、ぐっと目を瞑る。  けれども、わたしの体は宙に浮いたまま止まった。柴本の太い腕が、わたし体を支えてくれていたのだ。 「怪我はねぇか?」 「大丈夫ですか?」  ありがとう。ふたりに返しつつ、体を起こしながら柴本を見る。50キロ程度あるわたしの体を片手で難なく支え、その間、少しも揺らぐことのない体幹の強さは日頃の鍛錬の賜物か。  諸々の発端となった数日前の言い争いを思い返す。腕力に訴えようとする場面は決してなかった。  きっと自制してくれていたのだろう。 「ひょっとして、暗くて見えていませんでした?」  猫塚くんの言葉に、獣人と人間の身体能力の違いに改めて気がつく。わたしから見れば真っ暗闇でも、彼らの視点では足元が分からないほどではないのかもしれない。 「あー、悪い! 気付かなかった」  謝られる話ではない。単にわたしが見えていなかったのだ。そんなことを返すか返さないかのうちに、左手を柴本に、右手を猫塚くんに繋がれた。 「これなら安心だな」 「そうですね」  小さな子供に戻ったか、はたまた秘密組織に連行される宇宙人になった気分だったけれど、悪くはないなと思った。 (了)  
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