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「ホントにぃ?」
本当だってば。しつこいなぁ。頬の辺りにぴたぴたとくっ付けられる鼻先を払いそうになるのを堪える。纏わり付かれたまま、色々とごめんなさい。と、聞こえるように言った。
暫くはわたしにじゃれつくのを続けていた柴本だったが
「んー? そんなん別にもういいだろ? ……いや、そうじゃねぇか」
ややあって、体を離してスッと背筋を伸ばし姿勢を正し、わたしに向き直り
「おれの方こそ、色々と言い過ぎた。悪かった、ごめんな」
受け入れる以外の選択肢を、わたしは選びたくないと思った。雨降って地固まるまで4日。長かった。
「やっと一件落着ですか」
私の右隣に座っていた猫塚くんが、夜空を見上げたまま声を発した。ズボンの後ろから突き出た細長い尻尾が、ゆらゆらとゆったりした動きで揺れているのが暗闇の中でもぼんやりと見えた。
「色々ありがとな。猫ちん」
「猫塚です。勝手に略さないでください」
眉間に皺を寄せながら、猫柄くんは顔中に笑みを浮かべる柴本を向いた。それとほぼ同時に、川岸のこちら側、もう少し下流の辺りから、ドン! と轟音がとどろき、空に大輪の光の花が開いた。
「たーまやー! って、どういう意味だっけ?」
ふたたび明るくなった夜空を見上げ、無邪気な感じで声を上げる柴本に、猫塚くんは
「花火屋の屋号ですよ。東京で数百年くらい続いている老舗の。でも、確か河都市にはなかった筈です」
「にゃん太郎は物知りだなぁ」
「おれの! 名前は! ね・こ・づ・かです! わざと! 間違えないで! ください!」
色とりどりの閃光が瞬く中、猫塚くんの普段は細長い尻尾が、ビン洗いのブラシのようにぶわっと逆立った。
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