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3.
話を昨日――金曜にまで溯ろう。
わたし鴻那由多は、とてもくだらない理由で同居人とケンカをしてしまった。
そのとき浴びせられた心ない言葉に傷つき、家を飛び出してから3日目の夕方だった。
「――えっと。話は変わるんですけど……今日も泊まって行かれます?」
業務を終え、帰宅準備をしながら雑談を交わしていたところで、猫塚くんが遠慮がちに切り出した。
家に帰れていない2日の間、ご厚意に甘えさせていただき、彼の家に転がり込んでいたのだ。
このオフィスから徒歩10分くらいの場所にある単身者用のアパートで、始業開始の1時間前に起床しても余裕で間に合う。なお、家主であるこの青年は、始業開始30分前に起きてギリギリに駆け込むことも多いのだとか。
そうさせて貰えるとありがたいけど、迷惑かな?
わたしの言葉に、猫塚くんは一瞬だけ眉間に皺を寄せてから――コイツ常識あんのか? とか、そんな感じ――、けれど、いつもの人当たりの良い表情に戻り
「いえ、迷惑とかじゃないんですよ。全然大丈夫っす。鴻さんにはお世話になってるし」
言葉とは裏腹に、細長くよくしなる尻尾がぶんぶんと揺れている。彼ら猫虎族の『嫌です』のサインだ。
まぁ、さすがに今日は帰るよと言うと、猫塚くんは
「LINK見ました? メッセージ確認してみてくださいよ」
促されるまま、通信アプリを開く。3日ほど開いていない間に、柴本からの数十件にも及ぶ未読メッセージで埋め尽くされていた。内容はどれも、いつ帰って来るのかとか、音声通話の不在着信ばかりだったのだが、つい40分ほど前に送られてきたばかりの、最新のメッセージだけ少し違う内容だった。
《明日の龍神川の花火大会、見に行かないか? 良い席が取れた》
「ね、一緒に行きましょうよ」
猫塚くんが取り出し、画面を見せてくれた端末にも、ほぼ同時刻に同じメッセージが送られていた。
いつの間に知り合ったの!?
差し出された端末画面と、その持ち主の顔を交互に見比べたわたしは、つい驚きの声を上げてしまった。
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