4.

1/1
前へ
/9ページ
次へ

4.

 猫塚くんが入社してから4ヶ月が過ぎた。最初は職場の雰囲気に慣れず、また仕事にも戸惑うことが多かった彼も、気付けばかなり頼もしく育ちつつある。  以前にはわたしが色々とフォローすることが多かったが、最近では彼に助けてもらうケースも増えてきた。  ただ、それは今まで勤務中に関してのことであり、今回のようにプライベートのことではなかった。  彼は、水面下で物事を調整する能力に長けている。  就業前に突如持ち込まれる書類作成とか、突発的に発生する事態は苦手なようだ。いや、これに関しては誰だって嫌だろう。無論わたしも。  けれども、あらかじめ開始時期や期限あるいは着地点が決まっている物事に対しては、念入りかつ的確な根回しや準備によって、高い完成度で成功を納め続けている。聞いてみると、学生時代から飲み会のセッティングなどお手の物だったようで、サークルでは重宝されていたらしい。  今回、わたしはそんな彼の特技に助けて貰ったことになる。  さておき、この後輩と同居人がどこで接点を持ったのか、少しばかり気になった。家事代行でも頼んだことがあったのかと思ったのだが 「そんなこともするんですか? あの人、本当に何でもやるんですね」  ならば一体どこで知り合ったのかと疑問を口にすると、猫塚くんはその金色の目を決まり悪そうに宙に泳がせながら 「えーっとですね、鴻さんに内緒で調べちゃいました。なんか、すみません」  柴本と知り合うに至った経緯を聞かせてくれた。   **********  同居人とケンカをしていて、家には帰るつもりはない。  そのことを話したのは、ケンカをした翌日、水曜日だった。どこに泊まるのかと問われ、近くのネットカフェかビジネスホテルにでも入るつもりだと返すと 『それなら、前みたいにおれの家に泊まりに来てくださいよ。……ちょっと散らかってるけど』  と、快諾してくれた。    そうしてご厚意に甘えさせてもらうこと2日あまり。わたしが一向に帰る気配を見せないのを不審に思ったのか、今日の朝から仕事の合間を縫ってあちこちに聞いて回った末に、名前すら知らなかった同居人に連絡を付けたようだった。    彼がそんな回りくどいことをしたのかについては、思い当たる節があった。 『お前、自己評価は低いのにプライドは高ぇのな』  言い争いの折、柴本からはそんなことを言われた。もしかしたら猫塚くんもまた、同じように思っていたのかもしれない。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加