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「そこまで分かるなら、どうして迎えに来ないんです?」 「決まってるだろ。クールダウンの時間が必要だからさ」  余裕綽々な声が気にくわなかった。同時に、これは単に強がっているだけなのだろうと思い 「怖いんでしょ? 迎えに来て拒まれるのが」 「なぁアンタ、赤の他人だってのに随分入れ込むじゃねぇか?」  苛立ちを隠そうともしないザラザラとした声。だが、今度は圧されることなく返した。 「鴻さんには――いろいろ世話になりっぱなしなので」 「へぇ――」  端末の向こうが沈黙した。また呼吸音が数度。それから 「良いヤツだな」 「はぁ。そりゃどうも」  またもや、あっさりと毒気の抜けた声に、どう返して良いか分からず適当に返事をする。 「で、だ。にゃー助くんを見込んで頼みがある。明日、龍神川で花火大会があるんだ」 「それが何なんです? あと、おれの名前は猫塚です」  スーツ姿で蒸し風呂に立つような空気の中、適当な名前で呼ばれた苛立ちを隠さずに返した。 「仲直りのためのセッティングを手伝って欲しいんだ。ほら、雰囲気作りって大事だろ?」 「別に、普通に言えば良いじゃないですか」 「恐がりなのさ、おれは。今だってあいつが3日も居ねぇ寂しさで泣いちゃいそうなんだ」  淀みない言葉に思わずため息が漏れた。 「もう切りますよ。外、暑いんで」  端末を耳から離し、通話ボタンをオフにすべく指を伸ばそうとすると 「あっ、待ってお願い! 切らないで!」  焦ったような声が聞こえてきた。 「お願い! 君を見込んで頼むよ! タダとは言わないから! そうだ、君の分の席も押さえておくよ! 那由多だって喜ぶだろうさ。頼むよ! それじゃ、通話代かかっちゃうし続きは後で!」  慌ただしく通話が切れてから1分と経たないうちに、通信アプリに柴本からのフレンド申請が届いた。 「……何なんだよ、一体」  むっと纏わりつく湿気に顔をしかめながら、猫塚くんはそれを承認したのだった。
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