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1.オープニング
「匡ちゃん、
こんな石ばっかり集めて何が楽しいの?」
俺の部屋の飾り棚に並べられた様々な石を見て、茜音は首を傾げていた。
女には、この気持ちはわからない、
他人から見たら何の価値もない物を集めたがるのは男の性じゃないだろうか。
一見ゴミにしか見えない、誰にも見向きもされないガラクタでも、この世に一つしかないと思えば宝物になる場合がある。
価値観は人によって違うものだから、、
「石にも個性があってどれも顔が違うんだよ、色や形も様々だけど、例えばこれなんか犬の顔に見えるだろう」
「う〜ん、言われれば何となくねー、
いろんな色の石があるんだね、地味な色のは何かに似てるってことなの?」
「それもあるけど、俺が探してるのは、、」
その中の一つ、
拳ほどの丸い石を手に取って茜音に手渡した。
「なに? ただの丸い石じゃん」
「河原の石はさ、水の流れで転がる時に角が削られて丸くなるんだ、でもなかなかまん丸な石はないんだよ」
茜音は自分の掌に乗せた石を、上下左右から眺めて納得したのか、
「うーん、確かにこれはまん丸じゃないよね」
「俺が毎年夏休みに岐阜の爺ちゃんの家に行くのを知ってるだろ。近くの河原で探しているんだけど、なかなか見つからないんだ」
「ふーん、なんか宝探しみたいで面白そう。
ねぇ匡ちゃん、今年は私も連れてってくれるんでしょ、一緒に探してあげよっか?」
中学三年のあの夏、
俺たちの前に包み込むように垂れ込めた靄は、
ときめきと希望に満ちた二人の高校生活を奪い去ってしまった。
無くした記憶と、
失われた青春、
勇気を出して手を伸ばせば、
きっと届いたはずなのに、、
大きな流れに抗うこともできずに、
流されるがまま、二人は離れてしまった。
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