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そういうわけで、俺は一人きり、風鈴祭りの夜に立っていた。われながら恥ずかしい行動だと思う。おさえられない妄想が走り出したとか、そんな具合だ。
しかし、一人ぼっちの祭りの夜はそれほど心細いものではなかった。たくさんの灯りと人ごみ。屋台からただよう焼きそばの匂いや、ざわめきとともに聞こえる風鈴の音色に、俺の心は無駄にわくわくしていた。
さあ、柏木を見つけ出そう。そして偶然を装って、彼女の肩を叩くんだ。それから祭りを二人で見て回って、チョコバナナを一緒に食べて、なんとなくいい感じになって、これはいけると手応えをつかんだら、彼女に告白をしたっていい。
もちろん、これは約束と呼べるようなものではない。俺の勝手な願いである。
けど、だからだろうか。この夜のどこかにきっと彼女はいる。そう考えるだけで、俺の心は根拠のない期待感で満たされていった。
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