MESSAGE.2  体育祭

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 「えっと、男子のリレー出場が……」  放課後、1人教室に残り、クラス名簿と格闘する。  咲綾は部活に行った。こういう時ほど、咲綾と一緒に思いきり踊りたくなる時は無いが、終わらない限り部活には行けない。  「あれ? 明日香じゃん、何してんの?」  顔を上げると、佐久真が教室の入口から覗いていた。どうしたのか、と問えば、忘れ物を取りに来たらしい。  あったあった、と机から取り出すのは、なんとスマートフォン。確かにこれは取りに帰ってこないといけない。  「スマートフォン忘れてたの?」  「よくやるんだよなー……んで、帰り道の信号で止まって、少し見ようってなって胸ポケットが軽いんだけどなんで? って気づく。」  「何それ。」  一緒に笑い合った佐久真が、何を思ったか荷物を下ろし、席に座った。  「なんか手伝うことある? もう5時だぞ、早く終わらせてぇだろ。」  「いや、そうだけど……みんなの名前を、出場者名簿にフルネームで手書きしなきゃってだけだから。」  手元を覗きこんでくる佐久真は、大変そー、と呟いている。その声を無視して必死に書いていると、不意に佐久真がクラス名簿を指さしてきた。  「へ? 何してんの?」  「いや、今書いてんのここだろ? こうやって指差しとけば見逃すこと無いじゃん。お前さっきから目滑りすぎなんだよ。」  「もー! このクラス地味に人数多いんだから仕方ないじゃん!」  そう言いつつも、佐久真の指があるだけで全然違う。進みが段違いになったのを見て、佐久真がおかしそうに笑った。  「ほら、全然違うじゃん。」  「くっ……さすがに認めるしかなさそうね……」  「いや、誰の真似だよ。」  「え? この前やってたアニメの主人公のセリフ。」  薄暗い教室に、2人の笑い声が響いていく。何故か、不思議な心地良さがあった。
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