MESSAGE.2  体育祭

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 「ただいまー……。」  家のドアを開け、中に入る。少し可愛げな装飾が施された玄関を通り抜けると、広いリビングに辿り着く。  『おかえり、明日香。』  父が出迎えてくれる。耳が聴こえないながら「難聴ピアニスト・長谷颯也」として名を馳せる父は、いつも手話で会話してくれるろう者だ。  母は「難聴のカメラマン・NAOKO」として、こちらもまた手話で会話するろう者だった。  つまり、必然的に家での会話は手話になる。世界一静かな家庭で、静かな時間を過ごせるこの家が好きだった。  『お母さんは?』  『今日は大きな撮影が入っているらしくて、朝からスタジオにいるよ。』  この家は、1階に大きくてお洒落なフォトスタジオが、2階の一角にグランドピアノが置かれた防音室がそれぞれあり、両親の仕事場となっている。  いつも家族が傍にいるものの、電話はテレビ電話しか許されないし、どのみちその場所まで行かないと呼ぶことも出来ない。近所の人と話す時は、大抵私が間に入って通訳をする。  は結構大変だったけど、今ではすっかり日常の一部だ。  でも……ここ最近、ふと不安が募る時がある。  自分はダンサーになりたいという夢がある。咲綾と一緒にユニットでも組んで、踊り手や振付師、それだけじゃなくて、音楽も一緒にやりたいと話すようになってきた。  だが、こんな家を建ててしまった以上、両親がここから離れるのはかなり難しい。大学病院の耳鼻科に定期通院も行っているし、父は持病の喘息が徐々に肺へと侵食し、今は激しい運動や過度なストレスをかけることが出来なくなっている。  体育祭も、文化祭も、なんならダンス部の大会も見に来てくれる両親。その点は心配も何もしていなくて、むしろ嬉しいと思う。  だけど……もし自分がこの家から離れた時、両親はどうなるんだろう——ずっと思いながらも、咲綾にすら言えないでいることだった。
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