MESSAGE.2  体育祭

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 体育祭本番は、去年とは比べ物にならないほど盛り上がった。その中でも、特段視線を集めているのは……  「うわっ、羽森くん速すぎる……。」  「リレーじゃないよね、あれ。独壇場ってやつ……。」  そう、佐久真だった。足が速く、棒高跳びも最高記録を叩きだしている。次は借り物競争だ。  (頑張れ……。)  借り物競争で佐久真が1位を取れば、1Aはほぼ優勝間違いなし。全学年クラス対抗の部で見ても、A組の優勝が近くなる。  スタートの合図となるピストルの音が鳴り響き、一気に生徒達が走り出す。紙を拾い上げた生徒達が慌てて「うちわ持ってる人!!」だとか「ちょー、誰かカメラ貸してくれる神様いませんかー!?」と叫んでいる。  佐久真はじっと紙を見つめ、固まっている。他の生徒が次々に貸してくれと懇願する中、佐久真はしばらく動かなかった。  「羽森くんどうしたんだろ……。」  周りがざわつく中、不意にこちらを見た佐久真が一目散に駆け寄ってきた。何、と思う間も無く、こちらの手を掴まれる。  「は!?」  「わりぃ明日香! 走るぞ!」  「ちょ、ちょ、待って!」  腕を引かれて立ち上がった瞬間、横にいた咲綾の足が引っかかり、思いきり転んだ。  「嘘っ! 明日香、ごめん! 大丈夫!?」  「いったー……膝やったかも……。」  見れば膝には赤いものが見える。走れば垂れて、靴下や靴が染まるだろう。俯いていると、佐久真が「我慢してろ」と言って、一気に抱き上げてきた。  (こ、これは……お姫様抱っこ……。)  おー、と周りが囃し立てる中、佐久真が駆け出す。仮にもダンス部の高校生を抱えているというのに、一瞬で他の生徒を抜き、1位でゴールした。  「そのまま掴まってろよ!」  そう言った佐久真が走り出したのは保健室の方向。あまり息も切らさず走る佐久真の後ろに、焦った顔で追いかけて来る教員と咲綾が見えた。
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