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「わりぃ明日香……あんまお前の足元見てなかった。大丈夫か?」
「少し擦りむいただけだよ、大丈夫。」
保健室の中は既にエアコンがついていて、涼しい空気が身体を包んでいる。治療をしてもらいつつ、佐久真に気になっていたことを聞いた。
「ね、さっき引いた紙、なんて書いてあったの?」
「そうそう! すごい迷ってたよね。何があったの?」
咲綾も同調してくれる。佐久真は、自分を抱き上げる時にも紙を持ったままだった。手の中には、既にくしゃくしゃになった白いものが見える。
「え、あー……」
気まずそうに頬を掻いた佐久真が、紙を見せて来た。
そこに書いてあった文字を見て、思わず目を見開く。咲綾も覗いて来たかと思えば、ニヤニヤと笑いながら、思いきり肘でこちらの腕を小突いてきた。
(あなたの……大切な人……?)
しばらく考え込み、真っ直ぐにこちらへ向かってきた佐久真。そして一緒に走ろうとした佐久真。つまり——
そこまで考えて、一気に顔が熱くなる。何を言えばいいか迷い、その沈黙に気まずさを感じた時、ガラッと保健室のドアが開いた。
「あ、お父さん、お母さん。」
『大丈夫か!?』
『今先生に聞いて……怪我したの膝だけ? 大丈夫?』
手話で慌てたように聞いてくる両親。親の顔を、佐久真に一番見られたくないという思いが蘇り、思わず目を逸らす。
何度か小さく頷いた時、佐久真がサッと間に入り、手を動かし始めた。
『明日香は大丈夫。俺がよく見ていなかった。ごめんなさい。』
呆然とその姿を見守る。滑らかな手話、真剣だけど優しい目、何度も頷いた2人に『俺、羽森佐久真。明日香と同じクラス。よろしくお願いします。』と手話を続ける。
「羽森くん……手話出来るの?」
「ん、あぁ……まぁな。」
大切な人——その文面が蘇り、考えこむ。佐久真にとって、自分は大切な人。転校して間もない佐久真にとって、そんなすぐに大切な人になるのだろうか。
「一目惚れじゃない? やるじゃん、明日香。」
咲綾がそう囁いてきたが……どうも違う気がして、少しモヤモヤとした気持ちが湧き上がって来ていた。
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