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結局、応援団も佐久真の独壇場となった。
法被、手袋、学ラン……その姿でバク転なども繰り出し、一気に全員の注目を集めたおかげか大量の票が入り、A組が難なく1位を獲得した。大喜びしていたのは、先輩達だった。
「羽森くん、多分この後が大変だよ。」
「え? なんで?」
席に戻り、競技が再開されたのを見つつ、横に座る佐久真に声をかけると、予想通りの反応が返って来る。
反対側から、咲綾も口を挟んだ。
「そうそう! なんか体育祭って、運動部が帰宅部をスカウトするための行事、とか裏で言われてるらしいんだよね。」
「なんだそれ……」
「今日さ、マジで羽森くんの独壇場だったじゃん? 絶対明日から、嫌になるほどスカウトが来るよ。この長湯ペアが保証する。」
心底めんどくさい、という顔をしていた佐久真は、ふとこちらを見てきた。
「ちょっと待て、長湯ペアって何だ。」
咲綾と顔を見合わせてから、少し笑って口を開く。
「長谷明日香と湯村咲綾の頭文字を取って、長湯ペアだよ。ずっと一緒にいるから、先生達につけられたの。」
「いや、つけたの教師かよ。で、絶妙にネーミングセンスと語呂いいのなんなんだ。」
そう言いつつ、佐久真も笑いが堪えきれていない。笑いながら膝に目を落とせば、絆創膏には血が滲んできている。
応援団は普通に出てしまったし、ダンス部だからと結構躍ったから傷が塞がりきっていないらしい。
「明日香、私が持ってる絆創膏貼っとく?」
「あ、うん。もらう。」
慌てて絆創膏を外し、封を切っていなかったペットボトルを開け、水をかけて洗う。差し出された絆創膏を当てようとするが、傷の方が一回り大きかった。
「わ、どうしよ……。」
「ん、これ使え。」
佐久真が差し出してきたのは、保健室に置いてある大きな絆創膏。どうやら、さっき先生に頼んで持っていたらしい。
「ありがと……。」
恥ずかしいのか嬉しいのかよく分からない感情が湧き上がり、佐久真の目を上手く見れなかった。
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