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「で、ゴールデンウイークも終わって、私達に春が来ることは無いまま、どんどん暑くなって……待っているのは……」
教室に入り、席に着くや、後ろの席にいる咲綾が死んだ目で見つめるスケジュール帳には、中間テストの日付が書かれている。
明日か明後日ぐらいからちょうど、テスト週間と呼ばれる、部活禁止の一週間が始まるだろう。
「赤点じゃなければいい! ってテンション上げてた咲綾なら、大丈夫だって。」
そう言うと、咲綾の目が気怠そうにこちらを捉える。
「そりゃ明日香はさ……学級委員長やってて、成績優秀で、ダンスも上手くて、可愛くて、それはそれは素晴らしい文武両道型の優等生でしょ……ダンスしか取り柄の無い、平凡代表の私には無理……。」
何言ってんの、と言いつつ、一緒に笑う。
咲綾とは、幼稚園からの腐れ縁。ずっとクラスが分かれたことの無い伝説持ちの二人、と言われてきた。
自分の過去を唯一理解してくれていて、誰よりも傍にいてくれた、大切な親友だ。
「あ、そういえばさ、そろそろ来そうじゃない?」
「へ? 誰が?」
咲綾がニッと笑って、机に肘をついた。
「転校生。この地域、ほんとに出入り激しいし、もしかしたらあるかもよ。」
「……男子だったら、猛烈アピールしましょとか言うんでしょ。」
「あらぁ!バレちゃった! やだわぁ、明日香さん何で分かっちゃうのかしらねぇ?」
溜め息を吐きながらも、咲綾と笑い合う。
長谷という名字の自分と、湯村という名字の咲綾は、ちょうど出席番号の都合で、最初の席が隣同士になりやすかった。
長湯ペア、というなかなか不憫な渾名をつけられてはいるが、先生達の間でも、この仲の良さは有名らしい。
(転校生か……。)
咲綾のこういう勘は、意外と当たりやすい。少し楽しみだった。
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