MESSAGE.1  転校生

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 「ここがコンピューター室。で、ここにある階段を降りると、直接体育館に行けるよ。体育の前は混雑するから気を付けて。」  昼休み、早々に昼を食べ終わり、佐久真を案内する。背が高い佐久真は学内でも目立ち、嫌でも視線を浴びる羽目になった。  「なぁ、音楽室ある?」  「え? あるよ。ちょうどコンピューター室の真上。」  案内すると、無言で中に入った佐久真がピアノの蓋を開ける。止める間も無く、細く長い指が鍵盤の上を滑り出した。  (わ、めちゃくちゃ上手い……。)  なんだっけ、これ。確か、ショパンが作った別れの曲だったかな。お父さんが弾いていた気がする。  楽しそうに弾く佐久真の音色につられて、多くの生徒や先生が見に来ているのが分かる。  鍵盤から手を放した佐久真が、自慢気に笑った。  「ピアノは昔からやってたんだよ。どうだ? 驚いたか?」  「えーっと……ギャップってこのことを言うんだなって思った。」  「んだそれ。」  吹き出した佐久真に、音の粒が揃っていた、と伝え、少しアレンジしていたよね、と伝えると、その目が見開かれる。  「え? 何? ピアノやってんの?」  「ううん、私じゃなくて、父親がやってるの。長谷(はせ)颯也(そうや)っていう難聴ピアニストなんだ。知ってる?」  佐久真が、目を輝かせて立ち上がる。  「え!? 長谷颯也!? マジ!? うわー、大ファンだわ……。」  「どこかで会えるよ。行事とか来るから。」  「ノート常備しとこ。サイン貰う。」  笑いながら、ふと考える。  プロの音を聞き慣れた自分でも、相当上手いと思えた佐久真の演奏。でも、何か別の部分が引っかかる。何だろう、どこかであの弾き方の音色を聞いた気がする。  (お兄ちゃんに関係あるのかな……。)  次、案内してよ、という佐久真の声で我に返り、一緒に歩きだす。だが、一度浮かんだ考えは、なかなか消えてくれなかった。
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