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春の鳥が鳴いている。
そう言われて空を見上げた。
快晴の空は暖かい。
鳥達は慈しみ合う様に囀っていた。
二人は良く校舎の屋上でサボっていた。
それは小学生の時の話だ。
二人は、秘密をいっぱい作った。
初めての秘密は、秘密になりきれてなかった。
二つ目の秘密は、今でもこそばゆかった。
三つ目の秘密はしょうもないものだったし、
四つ目の秘密は今でも二人の基盤だ。
その秘密の一つは、ヨリタカの肩に有った。
そっと留まった、黒い小鳥。
その刺青は、何故だかとても魅力的に見えた。
沢山の秘密と共に、二人は育っていった。
ずっと一緒なんだろうと、ヨリタカは思っていた。
だから、高校が別になるなんて想像も出来なかったのだ。
「連絡が途絶えた時は、本気で泣いた」
そう告白すると、メジロは複雑な笑みを浮かべる。
だから、メジロが刺青を彫るため銀鷹組の屋敷に来た時は目玉が出るほど嬉しかったし、実際その姿を見た時は大泣きして抱き締めた。
「大変だったんだぞ、彫師になるの」
「だろうな」
あの期間は、昔に戻ったかの様に思えた。
メジロも、ヨリタカの背中の跨り墨を入れている瞬間が、人生で一番の喜びだった。
でも、その幸せな時間も、そう長くはなかった。
「なんで、また居なくなってしまったんだ」
「オレにも色々有ったんだよ」
その答えへの反応を許さず、メジロはその唇を塞いだ。
背の高いヨリタカに合わせ、爪先立ちで舌を入れる。
「いり、ひと」
本名で呼ばれ、イリヒトは背筋がぞわりとしたのを感じた。
灰色荘の住人は、知らない呼び名。
筋ばった大きな手が、イリヒトの前髪に隠れた幾何学模様をなぞった。
その感覚に、ゾクゾクと震える。
そんな何年か振りの幸せに酔っていると、ドアのノック音が聞こえた。
「そろそろ入っていい〜?」
メジロは袖で口を拭い、どうぞ、と促す。
入って来た水銀に、メジロは首を傾げた。
「お前は銀鷹組で見た…」
「ああ、俺の弟だ」
そう鷹に紹介され、美男は軽く会釈する。
「ヒメユリっす」
その見た目から想像付かない言種に、ああ、とメジロは思い出す。
「あの小僧か。大きくなったな」
小僧って、と水銀も苦笑した。
「此処に来たのも、ヒメユリの相談がしたかったからだ」
ヨリタカに言われ、ああ、とメジロはもう一度合点がいく。
「そろそろ彫るのか」
ヒメユリのそれに対しての答えが曖昧なのが、メジロは引っかかった。
二人を面談用のソファに座らせ、自らもその向かいに座る。
「で、どんな物にする?」
「色々有るの?」
ヒメユリの答えにメジロはパンフレットを渡した。
「お前、痛みには弱いか?」
ん〜、と空の眼は考える。
「血が出るくらい頭を鉄パイプで殴られるくらい痛い?」
「いや…多分それよりは痛くない」
「なら大丈夫〜」
右手でOKマークを作った。一体何があったらそんな発想になるのか。
「和彫と洋彫が有るが、どっちが良い?」
「何か違うの?」
「和彫は龍とか鳳凰とか、日本画っぽいやつで、洋彫はヨリタカみたいなやつとか、ハートのやつとかだな」
君みたいなの?と訊かれ、そうだな、とメジロは答える。
ヒメユリはパンフレットをぺらぺらと捲り、ふ〜んと相槌を打つ。
「そのパンフレットはやるから、じっくり考えてくれ。一生物の話だから、しっかりな」
ヒメユリは小冊子をペラペラと捲りながら、う〜んと気の無い返事をした。
「では、今日はこの辺でお暇しようか」
ヨリタカの言葉に、ヒメユリもそうする事にする。
カラン、とドアの鐘を鳴らした。
「もうキスしなくていいの?」
水銀がニヤニヤと笑い、ヒメユリ!!と鷹に怒られる。
メジロも苦笑すると、二匹の猛禽類は店を出ていった。
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