背徳と闇の帷-02

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黒い軽自動車と水色のミオの車が駐車場に止まる。 ぞろぞろと出てきた喪服の人々は、それぞれの目的地へ向かった。 この寒い季節に墓参りをするのは、ミドリとナミトの職業が花屋だからだ。 盆の時期は稼ぎどきで、自分達の盆参りなど出来る状態ではない。 他の人々は、そのついでだった。 アキノは墓石の前に開けていない缶コーヒーを置く。 それはアキノが好きな少し高い物だ。 本当はアキノは酒が好きだが、彼に呑ませるわけにいかなかった。 「でも知らなかったな。アキノに双子の弟が居たなんて」 ユウリは白い息を吐いて言う。 「まあ居ないようなもんだし、話のネタにならないからな」 その弟は、母の胎内で死んだ。 アキノに弟の記憶は無い。 今の人生に不満は無いが、弟が生きていたらどんな人生になっただろうか、と墓参りの時だけ考えていた。 「多分、両親ももう来てないんだろうな」 その墓石の苔を洗い流しつつ、アキノは呟いた。 「でも、今年は賑やかで良かったよ」 そう少し笑うアキノに、ユウリはこそばゆくなる。 「そうですね。私も良い報告が出来ましたし」 新しい恋人の腕に絡みながらミオも言った。 「本当に俺来て良かったの?」 ヒメユリが問うと、当たり前じゃない、とミオは答えた。 「さっきの蛇食、かっこよかった」 艶の有る唇からほそりと言うと、ヒメユリは満更でもなさそうな顔をする。 なんだかんだ、蛇と鷲は熱い関係だった。 「俺も幸せにしたい人ができたよ」 小さいままの弟に報告する。 しゃがんでる赤髪をユウリがぽんと撫で、アキノは苦笑した。 そう、今は幸せなんだ。 それは周りからは歪んで見えるかもしれない。 でも、幸せなんて主観的なものだろう。 色々なものを振り払って、ここまで生きてきた。 自らのしがらみから、逃げ出すように。 そんな人間達が集まるのが、灰色荘だった。
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