背徳と闇の帷-02

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車の中に居た時から、その兄弟は手を繋いでいた。 俯いたままの兄を、弟は見つめる。 そんな二人をフロントミラー越しに見て、ナミトは先程の事件を考えていた。 言われなくても、あの狂男が二人の父親だとわかる。 そして二人の本名も、恐怖と憤りの顔も、墓まで持って行こうと決めていた。 郊外の寺院に近づき、速度を緩める。 停車した車から出た喪服の団体は、それぞれの目的地へ向かった。 二人が母親の前に来るのは、一年に一度だけだ。 立派な墓石は埃一つ無い。 親族が綺麗にしてくれている事に感謝しつつも、その姿は絶対に見せられなかった。 一言も無しに、弟は家を出た。 兄は、一族から追放されている。 そんな二人が、親類に顔を出せるわけがなかった。 豪勢な花束の中に、こっそり一輪菊を混ぜる。 線香を置く時だけ、ミドリとジュウジは手を離した。 「…覚えているか、兄さん」 ジュウジは語る様に呟く。 「兄さんがカブトムシを捕まえて持っていくと褒めてくれたが、母さんは虫が苦手だったんだ」 「二人でピアノの練習をしていた時、母さんは隣で聴いていてくれたよな」 「母さんの手作りアイスを兄さんが食べ過ぎた時、本当に心配したんだぞ」 他にもぽつりぽつりと、幼い頃の思い出をジュウジは話す。 その情景には、いつも母親が居た。 「…そうだったね」 あの幸せは、母親が死んでしまった時に壊れた。 今はやっとそれも取り戻せた。 この、歪な形で。 「ねぇ、ひまわりを覚えてる?」 ミドリの呟きに、ジュウジは首を傾げた。 「君が昔くれたんだよ、背丈より大きなひまわりを」 「…ああ、そんな事もしたな」 線香を置いたミドリは立ち上がり、振り返る。 「あれ、本当に嬉しかったんだから」 ミドリはまたジュウジの手を絡め取り、やっと笑った。 「ひまわりの花言葉、知ってる?」 ミドリの問いにジュウジは首を横に振る。 「"あなただけを見つめる"だよ」 そう言うと、ジュウジは面くらい頬を赤くした。 「…そう、だったんだ…」 ただ、綺麗だったからあげたひまわりだった。 そう白状すると、ミドリは抱きついてくる。 「今日のお昼、焼肉にしようね」 ジュウジもその腕を背に回した。 「わかった。皆に提案しよう」 黒い墓石の前で、二人は見せつけた。 そんな姿を見て、母親は何て思うだろうか。 空がはらはらと泣き出した。 冬に舞う冷たい泪は、奇妙な墓参りを想っている様に見える。 若い住職がそう言うと、たまたま居合わせた男は、まさか、と鼻で笑った。
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