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プロローグ
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まだ光の入らない室内で鳴り響くアラームの電子音に、重い瞼を持ち上げる。
そのまま、覚醒し切っていない脳でいつものようにスマホのアラームを停止した。
また、今日を迎えてしまった。
いつからだろう。
今日起こるかもしれない出来事に体を震わせるのは。
いつからだろう。
心から笑えなくなってしまったのは。
僕の日常が狂い始めたのは本当に突然だった。
急に現れた転校生のせいで、僕は、この学園は、変わってしまった。
体を起こすと動いた関節から伝染していくように、身体中に痛みが広がる。
多分、殴られたところがまだ治ってないのだろう。
痛みに顔を歪めながら、それがおさまったところでベットから抜け出し洗面台へ向かう。
鏡の前で上のシャツを脱げば、晒される肌にはいくつもの青痣。
それを目視すれば、殴られた時の映像がハッキリと鮮明に頭に流れ込んでくる。
まるで高画質の映画を見ているように。
視界が歪んで、気付けば目から涙が止めどなく溢れていた。
ふと身体の力が抜け、その場にへたり込む。
もう、限界だったのだ。
声にならない嗚咽を吐き出しながら肩を震わせる。
止むことのないこれは、いつ終わりを見せるのか。
はたまた終わりなんてなく卒業までこのままなのか。
先が分からないことの恐怖と絶望に僕はただ泣くことしかできなかった。
暫くすると落ち着いてきたそれに、呼吸を整える。
それを見計らったように、扉の向こうからは人が歩く足音が聞こえてきた。
起きてしまったのか、彼が。
「小春!どこ行ったんだよ!!」
寝起きの声量とは思えない声に、僕を探さないで、と無意識に自分の体を両手で包み込む。
まだ微かに震えていた身体は、声を聞いた途端さらに震え出す。
……寒い。
この寒さは気温でなのか、それとも恐怖でなのかなんて分からない。
僕を探さないで。
そう願うが、その願いが叶わないという事は彼と一緒にいて嫌というほど思い知らされた。
意を決し、洗面所から顔を出せばそれに気付いた彼は笑顔でこっちに向かってくる。
「ここに居たのか!おはよ!!」
「……おはよう」
多分、無理に作ろうとした笑顔は不恰好で引き攣っていたと思う。
だが、それに気づかない彼はキッチンへと足を向けた。
その後ろ姿を眺めながら僕はそっと下唇を噛む。
……ああ、本当に。
誰でもいいから僕を助けて。
その言葉は僕の脳裏に浮かんでは泡のように消えて無くなった。
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