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王道学園へようこそ
「もしもし」
「うん、俺はだいじょうぶだよ」
「そっちも頑張って。……うん、またかける」
そう言って通話終了ボタンを押し、スマホを右ポケットに収める。
はぁ、と無意識に溢れた溜め息はギギギと音を立てて開く門に掻き消された。
両親が海外での仕事をメインにすると出ていって早1ヶ月。
それに伴い、俺を預かってくれたのがじいちゃんだったが、じいちゃん家から通っていた高校へ行くのは距離的に困難で、でもずっと居座るわけにもいかず俺はここから近い完全寮制の男子校に転校することを決めたのだ。
そして今日はその転入初日。
身だしなみもきちんと整え、髪のセットにはなんと1時間近くもかけた。
なんでそんなに時間が掛かったのかというと、鏡に映る俺自身との見つめ合いがどうやら目の錯覚を引き起こしたようで。
ゲシュタルト崩壊っていうのかな?
何の髪型をしても完璧に似合っているように見えて迷ってしまったのだ。
別に転校デビューをしようとしてたわけじゃないんだからね、と誰に言い訳するでもなく惨めな自分を慰めようと心の中で呟いていれば、ふと目の前の門が動き出す。
それに顔を上げると急に差し込む光に思わず目を細め、慣らすように数回瞬きをした今の俺はかなり絵になったと思う。
まだ春だというのに今日の天気は夏を連想させた。
転校日和バンザイ。
眩しさに慣れてきたところで、門の先に1人の男が佇んでいるのが目に入り、逆光でよく見えないが多分案内人だろう、と足を向ける。
本当は、人見知りのイマジナリー俺が片足掴んで行くことを必死に阻止していたが、待ってくれているであろう人を無視して勝手に突き進む事は善良のイマジナリー俺が許さなかった。
「おはようございます!」
「もう昼やけど」
初手で挨拶をミスってしまい人見知りのイマジナリー俺が羞恥から言い訳や誤魔化しの語彙レパートリーを並べだす。
それも、こういう時は気にしてないふうを装うのが良いんだよと追い払う。
そこであれ、と目を瞬く。
緊張を誤魔化すのに必死で聞き逃しそうになったけど、この人いま関西弁喋らなかった?と顔を上げれば、一際目立つラベンダー色の髪に、左目を眼帯で覆った翠眼の青年と目が合った。
淡い紫が光を纏い、風で靡くのを綺麗だなと率直に頭の隅で思う。
「あ、俺佐々木悠馬です。転校生の」
「知ってんで。せやから迎えに来てん」
そう笑いながら話す関西ボーイ(仮)は"野上明楽"と名乗った。
やはり彼が学園の案内をしてくれるらしい。
「休みの日にわざわざすいません」
「気にせんで。あと敬語外してええよ、同級生やし」
「え!?先輩かと思った!」
衝撃の事実に、途端テンションが上がる。
不安や緊張から縮こまっていたイマジナリー俺たちも一斉に立ち上がって拍手をしている気がした。
背が高く、180程あるであろう彼は雰囲気も大人びていてとても同級生には思えなかったからとても驚き。
目を開き、彼の顔を見詰めればニコと笑顔で返されて顔面から放たれる放射線から目を守ろうと手で覆う。なんて破壊力なんだ!
「そない見られたら照れてまうわ」
「神様の愛し子みたいな君の顔面なら見られ慣れてるはずなのに照れるのかなり高得点。俺の事オトしにきてる?」
「自意識過剰な子はタイプちゃうからごめんね?」
「アッ出会って数分の相手に自意識過剰認定されてフラれちゃった。俺の学校生活もうお先真っ暗かも」
「バラされたくないんやったら俺の事ずっと見張っとき」
「流石に俺ストーカーじゃん」
「同室やからわんちゃん合法」
「え、同室なの?」
徐々に話が社会的に抹殺される方向に向かって行っている気がしていると、前触れもなく彼が俺と同室だと言うことを伝えられ言葉を理解するのに数秒。
一度整理タイムを取ろうと片手を上げ考える人のポージングをとる。
美術部いるならデッサンしてくれても構わないよ!
ええっと、まず彼の名前は野上明楽で多分関西人。
そして背が高く落ち着いた雰囲気だが俺と同い年。
最後にこの人と俺は同室と。
……なるほど?
「整理できよった?案内始めんで」
「あ、うす。なんて呼んだらいい?」
「明楽でええよ。俺、悠馬って呼ぶから」
「おっけ」
初対面だがさっきまでの会話を振り返って分かった事がある。
明楽は結構フレンドリーで話しやすい。
何より俺の冗談に乗ってくれるのポイント高い。
怖い人が同室だったらどうしようと思ってたけど明楽となら上手くやっていけそうだ、良かった、とひとまず胸を撫で下ろす。
「どした、胸焼け?」
「明楽の顔って初めはめっちゃ美味しいんだけど、脂多いから…」
「褒めとんのか貶しとんのかよう分からん感想ありがとう」
「でもまた食べたくなる」
「例えが焼肉なんはさっきから鳴っとるその腹が原因?」
「バレてんのはず。その流れで飯奢ってくれる?」
「残念やけど食堂もうしまっとるで」
「え、まじか」
早速案内始めよか、と明楽が学園に向かって歩き始めたので俺も腹の虫の音を抑えながらその後に続いた。
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