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進化
新羅は今日もビオトープを眺めていた。
漆黒のスクリーンに浮かぶ碧い球体は、緑の気配が色濃くなっていた。
「だいぶ様変わりしたな。生き物の気配はあるのか?」
「ああ、見てくれ。さまざまな生物が誕生したよ。この球体の中だけですべての生物が完結しているなんて、素晴らしいじゃないか」
新羅の瞳には期待と好奇心が瞬いている。
「とりわけこいつが、最高に面白い生き物だな」
視野を拡大すると、水の中を悠々と泳ぐ生物が映し出された。イルカに似た生き物だ。
ヒレのほかにいくつもの触手を持っており、これを器用に使い、水生生物を捉えて捕食していた。
「ほぉ、ほどほどに知性を持った生命体のようだな」
「だろ? 新たな進化の過程を見られるなんて、生身の躰では到底無理だったろうからな」
「たしかにな。だが『忘却』という能力を失ったせいで、お前の苦しみは生々しいままなんだろ?」
潜水がじっと新羅を見つめると、新羅はゆっくりと首を横に振った。
「あいつを忘れてしまうことのほうが、苦しいに決まってるよ」
新羅はふたたびスクリーンのパネルを操作する。
「聞いてくれ。実はな、受信の感度を最大にすると、こんな信号が傍受できた」
スクリーンにはデータの羅列が映し出された。データのソースは、特定の波長を有する微弱な電波だ。
それは彼らの『言語』に違いないと、潜水はすぐに気付いた。
「なるほど、互いに意思の疎通を図っているのか」
「間違いない。逆にこちらから電波を送れば、会話ができるかもしれない」
「まさか! そこまで高度な進化をしているとは思えないが」
「いやな、彼らはまだ進化の途中だ。実はこれから電波を収集して解析しようと思っている。逆アセンブラは俺の得意技だったしな」
それからほどなくして――と言っても相当の歳月が流れたが――その生命体は新たな進化を遂げていた。
尾びれはいくつにも裂け、柔軟に動く『足』となった。
軟体動物のような柔軟さで、これを使って体を浮かせて歩き、ついには陸上での生活を始めるにいたった。
新羅は彼らの進化を見守り、スクリーンに映し出される大量のデータの分析を続けていた。
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