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花火の夜②
気を失っていた新羅は、全身の熱感と痛みで目が覚めた。服は焼け焦げ、皮膚がただれていた。視界がおぼつかないと思ったら、右目が眼窩から飛び出し吊り下がっていた。
必死の表情で辺りを見回す。辺りは廃墟と化していた。
「永遠……永遠はどこだ……!?」
けれど永遠の姿は見当たらない。吹き飛ばされたか、あるいは我を忘れた群衆に踏みつけられたか。嫌な想像ばかりが湧き起こる。
「どこに行ったんだよ、永遠……」
すると辺りに倒れていた人々が立ち上がり、うめき声をあげながらのそのそと歩き出す。
まるでかつて映画で見たゾンビのような姿だった。満身創痍の彼らは『避難所』に向かい始めたのだ。
もしかすると、永遠も避難所に向かったのかもしれない。
淡い期待を抱いて立ち上がり、重い体を引きずるように歩き出した。
どんなに深手を負っても、避難所にたどり着きさえすれば、助かる手段があるからだ。
生存、といえば正しくないが、ひどい戦禍に見舞われたとき、自分自身の存在を留めておく最終手段が残されているのだ。
たどり着いた『避難所』は身を隠せるような場所ではない。洋型墓石のような漆黒のパネルが無数に並ぶ、無機質な荒地だった。そのひとつひとつに、人が覆いかぶさるように倒れている。もう、ほとんどが息をしていない。
薄闇の中、力の続く限り永遠を探したが、その姿を捉えることはできなかった。
「永遠……ちゃんとたどり着いてくれよ」
新羅は祈りを込めて呟くと、懐からスマホを取り出し、空いたパネルの上に突っ伏してアプリを起動させた。
『現在の意識を消去し、NOAHに意識を転送しますか?』
それは意識を仮想空間に転送させるためのツールだ。
再確認の『はい』をタップした瞬間、新羅は雷が駆け抜けるような強烈な刺激を受け、全身を硬直させた。
『――転送が完了しました』
無機質な機械音声が、星の輝く夜空に鳴り響く。
その場には、新羅の骸が遺されているだけだった。
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