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「英昭!」
何年かぶりに聞いた母の声に、英斗は足を止めた。憎んでる相手の名前で呼ばれるのはシャクだったが、それでも嬉しかった。
「久しぶり……」
久々の母の声は、とても優しく聞こえた。燃えたぎった復讐心に水をかけるように、その声はどんどん大きく近付いてきた。
「ねぇ、この後時間ある? 久々に喋りたいことがあるんだけど?」
英斗はこのまま振り向いて、母の胸に飛び込んでいきたかった。そして、恥もプライドも全部捨てて、大声で泣き叫びたかった。
「英昭……?」
ヒールの音が近付いてくる。
「こっちに来るな」
すると、その言葉は反射的に自分の口から出てきた。
「なんも話すことなんてないよ」
嘘だった。
話したいことは山のようにあるのに。
自分の発してる言葉なのに、心がキリキリ痛んでいく気がして、英斗は思わず空を仰いだ。
「だから……ひとりにしてくれ……」
本当は抱きしめてひとりにしないでほしい。今までひとりぼっちだった分、頭を撫でて自分の本当の名前で呼んでほしい。
自分の意思と全く反対の意味の言葉が、口からこぼれていく。
「僕の邪魔……しないでくれ……」
心が平常に保てなくなった英斗は、黒い金属線を出して自分の体を包んだ。これ以上この場に留まると、自分の使命がぼやけてしまう気がして危うかった。
自分はこれまで正しいことをしてきたはずだった。だが、母の声を聞くとどうしても咎められているような気がしてならなかった。本当は母に洗いざらい話してしまいたい。それで、怒られてもいいから自分が本当に正しいかどうか教えてほしかった。
しかし、自分は色々とやりすぎた。ここまできてしまったらもう後戻りするのは不可能だろう。だから、自分の中の"正しさ"で突き進むしか道はなかった。
──弱い立場に立つすべての子どもたちのミカタに。
英斗は自分の使命を再確認しつつ、愛する母の前から姿を消した。
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