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「まなみ先生、おはようございます!」
「おお! げんちゃん、おはよう! 今日も元気だねー!」
ミドリ保育園の校門で、キリン組の担任である保育士の愛美は、くしゃくしゃと園児の頭を撫で回した。
「げんちゃん! あっちで遊ぼー!」
すると、どこからともなくまた別の子どもがやって来て、頭を撫でられた子どもを攫っていった。背後からは、今日も子どもたちの賑やかな声が聞こえており、愛美は密かに一日の始まりを感じていた。
「まなみ先生、おはよう!」
「あぁ! ゆめちゃーん! おはよう!」
愛美は、顔をパッと明るくして、夢香を包み込んだ。夢香は嬉しそうにぴょこぴょこ飛び跳ねながら、今朝起こったことを必死に説明した。
「今日ね、うさちゃんじゃないの!」
「……え?」
「お母さんがね、今日はカエルさんで我慢してねって!」
愛美は首を傾げた。
「カエルさん……?」
「ごめんなさい! 遅れました!」
恵梨香は声を張り上げながら、駆け足で愛美たちの方に向かってくる。
「夢香ちゃんのお母さん! そんなに走らなくて大丈夫、大丈夫ー! まだたっぷり時間ありますからー!」
愛美は慌てて声を上げたが、それが言い終わる前に、恵梨香は校門の前に滑り込んだ。
「いや、すみません……ほんと……今日は出るのが遅くなっちゃって……」
息を切らす恵梨香に、愛美は手を振った。
「いえいえ! 十分間に合ってますよ! ……じゃあ、ゆめちゃん! お母さんにバイバーイしよっか?」
それを聞いた夢香は、母親に向けて小さく手を振った。
「お母さん、またねー」
「はい、いってらっしゃい……」
恵梨香は、息も絶え絶えになりながら娘を見送った。夢香は母親の苦労など知らない様子で、ニヒッと笑いながら走り去っていった。
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