15/22
前へ
/103ページ
次へ
* 「僕、いっぱい殺しちゃった……僕みたいな子ども、ひとりでも減らしたくて……」  英斗はそう言うと、静かに自分の手のひらを見つめた。 「もう元の姿に戻れなくなってたんだ……それまでは、時間が経てば自分の姿に戻ることができてたのに……いまは一番嫌いなお父さんの姿にしか戻れなくて……それでまた、殴られたときのこととか、色々思い出しちゃって……止めれなくなって……」  小さな手のひらはゆっくりと閉じていき、グシュっと音を立てる。恵梨香は黙って英斗を抱き寄せ、頭を撫でてやった。しばらくして、小さく啜り泣く声が部屋中に響いた。 ──この子にとって、最善の選択とはなんだったのだろうか?  恵梨香は必死に頭を働かせたが、すぐにその答えが口から出てくることはなかった。   「お母さん……」  そのとき、ふと夢香の声が聞こえてきた。  顔を上げ、恵梨香は息を呑んだ。  さっきまで壁にもたれかかっていたはずの愛美が、いつのまにか夢香を抱き寄せている。夢香の細い喉の近くには鋭いナイフが当てられている。 「私だって愛されたかったよ」  そう言って、愛美は夢香に頬ずりした。 「"愛"って何? "愛される"ってどういうこと? "人を愛する"って……」  すると次の瞬間、愛美は歪んだ笑顔でいっぱいになった。 「大嫌いな元希くんじゃなくて……大好きな夢香ちゃんを殺せば、私にも分かるかな……」  ナイフがゆっくりと上昇する。 「やめ……」  ザクリ。  英斗はすぐさま愛美を阻止しようとしたが、無情にもナイフは体を突き刺した。  ゴロンと大きな体が床へ倒れ込み、背中に突き立てたナイフが光る。恵梨香の体は夢香に覆い被さるように、ダラリと垂れていた。  ほどなくして、愛美の体もゆっくりと床へ引き寄せられ、そのまま動かなくなった。  部屋は一瞬にして無音になった。 「お母さん……!」  英斗は急いで駆け寄った。  背中を刺された恵梨香は辛うじて息をしていたが、刺された箇所からは一向に血液が流れ出ていて、どうすることもできなかった。  そばにいた夢香は詳しい状況が呑みこめてないようだったが、さっきから全く動かない母親を見て、腹の底から泣き声を上げていた。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加