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「僕、いっぱい殺しちゃった……僕みたいな子ども、ひとりでも減らしたくて……」
英斗はそう言うと、静かに自分の手のひらを見つめた。
「もう元の姿に戻れなくなってたんだ……それまでは、時間が経てば自分の姿に戻ることができてたのに……いまは一番嫌いなお父さんの姿にしか戻れなくて……それでまた、殴られたときのこととか、色々思い出しちゃって……止めれなくなって……」
小さな手のひらはゆっくりと閉じていき、グシュっと音を立てる。恵梨香は黙って英斗を抱き寄せ、頭を撫でてやった。しばらくして、小さく啜り泣く声が部屋中に響いた。
──この子にとって、最善の選択とはなんだったのだろうか?
恵梨香は必死に頭を働かせたが、すぐにその答えが口から出てくることはなかった。
「お母さん……」
そのとき、ふと夢香の声が聞こえてきた。
顔を上げ、恵梨香は息を呑んだ。
さっきまで壁にもたれかかっていたはずの愛美が、いつのまにか夢香を抱き寄せている。夢香の細い喉の近くには鋭いナイフが当てられている。
「私だって愛されたかったよ」
そう言って、愛美は夢香に頬ずりした。
「"愛"って何? "愛される"ってどういうこと? "人を愛する"って……」
すると次の瞬間、愛美は歪んだ笑顔でいっぱいになった。
「大嫌いな元希くんじゃなくて……大好きな夢香ちゃんを殺せば、私にも分かるかな……」
ナイフがゆっくりと上昇する。
「やめ……」
ザクリ。
英斗はすぐさま愛美を阻止しようとしたが、無情にもナイフは体を突き刺した。
ゴロンと大きな体が床へ倒れ込み、背中に突き立てたナイフが光る。恵梨香の体は夢香に覆い被さるように、ダラリと垂れていた。
ほどなくして、愛美の体もゆっくりと床へ引き寄せられ、そのまま動かなくなった。
部屋は一瞬にして無音になった。
「お母さん……!」
英斗は急いで駆け寄った。
背中を刺された恵梨香は辛うじて息をしていたが、刺された箇所からは一向に血液が流れ出ていて、どうすることもできなかった。
そばにいた夢香は詳しい状況が呑みこめてないようだったが、さっきから全く動かない母親を見て、腹の底から泣き声を上げていた。
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