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*  物置はまだ小さく揺れていた。  瑠衣は一旦息を整えるために物置の扉にもたれかかった。さっきからずっと体当たりを続けているのに、状況は一向に変わらなかった。 ──このまま誰にも気付いてもらえないのではないか?  そんな気持ちも自然と湧いてきた。同時に、瑠衣は元希がいなくなったときのことを思い出していた。朱美が注ぐ元希への愛情は尋常なものではなかった。それは子どもの瑠衣から見ても一目瞭然だった。 ──こんな自分とは違って、元希は母親からたくさんの愛をもらっている。  父親は愛情の欠片もない。母親に関しては何を考えているのか分からない。そんな家庭に愛を感じられる瞬間などなかった。  物置に閉じ込められてからかなりの時間が経っているはずなので、さすがに自分がいなくなったことは気付かれているだろう。もしかしたら母親の悦子にも連絡がいっているかもしれない。だが、それを知ったところで母親がすぐに動いてくれるとは思えなかった。もっとも、すぐに行動に出てくれるような人間なら、自分がいま抱く感情だって違ったはずだ。自分は母親がそんな人間だとはお世辞にも思えない。 ──だって、愛されてないんだもの……  カチッ。  そのとき、頭上で軽い音がして、勢いよく扉が開いた。扉に体重を預けていた瑠衣は、そのまま前方に倒れ込んでしまった。 「瑠衣ちゃん……?」  瑠衣が状況も掴めずに固まっていると、向こうから人の声がした。顔を上げると、そこにいたのは隣の組の先生だった。彼女は慌てて駆け寄ると、瑠衣の口に貼られたガムテープを慎重に剥がしていった。 「怪我してない? 大丈夫?」  瑠衣はコクリと一回頷いた。 「ずっと物置の中にいたの?」  手足に巻かれたガムテープも剥がしながら、彼女は瑠衣に質問していった。瑠衣はその質問にひとつずつ首を振って答えていった。  予想通り、保育園では瑠衣、元希、愛美の三人が消えたことがすでに騒ぎになっていて、手分けして園内を探していたらしい。
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