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* 「なんだっていうんだよ!?」  刑事は怒鳴りながらパトカーを降りた。見上げると、先ほどまで何の変哲もなかったはずの英昭宅の二階部分が壊れている。まるでそこ目がけて大砲でも投げられたのではないかと思うほど、問題の部分は屋根も壁もボロボロに壊れていた。 ──まさかこんな早く舞い戻って来ることになるとは……  元希の骨が見つかったとの連絡が入り一旦は英昭宅を離れたものの、何か引っかかりを感じてもう一度寄ったのが正解だった。家の前にはすでに野次馬が何人か群がっていたが、刑事たちは人の波をかき分け、すぐに家の中に入っていった。  ドアを勢いよく開けると灰色の粉塵が一斉に舞い上がり、先陣を切っていた刑事は思わず後ずさりした。  しばらくして目を開けると、まだ細かい塵が舞っていて視界はかなり曇っていた。外側から見ただけでは分からなかったが、一階の壁や天井の至るところに亀裂が走っており、被害がどれだけ大きかったかが一目で分かった。 「一階でこのありさまかよ……」  二階へと続く階段を見上げると、上はさらに視界が悪くなっていて、ここから様子を伺うのは困難だった。刑事はポケットからハンカチを取り出し、それで口を覆いながら靴のままその階段を上っていった。  上の階に辿り着くと、コンクリートやガラスの破片が散らかっていた。刑事はジャリジャリという音を響かせながら、問題の部屋の前まで進んでいった。  意を決してドアを開けた瞬間、刑事は息を呑んだ。  そこは壁や天井が一部なくなっているところもあり、壁紙もほとんど剥がれていたので、もはや何の部屋なのか分からなくなっていた。  必死に目を凝らすと、若い女性がふたり、部屋の中央で倒れているのが見えた。ひとりは背中を刺されており、その横では小さな女の子が眠るように体を預けていた。刑事はとりあえず目の前にいる女性に声をかけた。 「大丈夫ですか!?」  体を触るとかなり冷たい。加えて、反応もない。刑事は急いで119番通報をしようとした。 「ん?」  そのとき、視界の端に何かを捉えた。  刑事は倒れている女性を再度確認した。女性は右手にピエロのぬいぐみを抱えていた。そのぬいぐるみは女性の手の中にすっぽりと頭を埋めていて、心なしかとても穏やかな顔に見えた。
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