3/9

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
* 「やっぱり外はいいですね」  刑事に車椅子を押してもらいながら、恵梨香は手すりの前まで来た。病院の屋上からの眺めはなかなかいいもので、恵梨香は肺いっぱいに外の空気を吸い込んでいた。 「今日は報告に来たんです」  刑事はタイミングを見計らって恵梨香に声をかけた。恵梨香が振り向くと、刑事は車椅子から離れ、手すりに寄りかかった。 「一連の事件にようやく区切りがつきそうです。だから、当事者であるあなたには一度きちんとお話しておこうかと思いまして……あ、もちろん単純に見舞いに行きたかったのもありますが……」 「お世辞どうも」  恵梨香は微笑みながら軽く会釈した。 「まず、今回の事件についてです」  刑事は苦笑いしながら語り出した。 「やはり、ひとりの保育士による猟奇的殺人事件でカタがつきそうです」  それを聞いて恵梨香は静かに頷いた。  子ども部屋で発見された愛美は、恵梨香と夢香の殺人未遂の疑いですぐに逮捕された。  調べを進めていくと、愛美は(かね)てからとある男性に対してストーカー行為を繰り返していたこと、それが朱美の旦那であり元希の父であったことが明らかになった。意識を取り戻した愛美は元希の殺害をあっさり認め、一気に事件は解決の方向に向かったというわけだ。 「愛する者を取られた報いだと……彼女は言ってます」 「"報い"か……」  恵梨香は空を見上げた。 「浮かばれませんね……元希くんも、朱美さんも……」  それを聞いていた刑事も釣られて空を見上げた。  自宅で気を失っていた朱美は、先ほどまで一緒にいたはずの元希がいないことに気付き警察に通報、その後警察経由で元希が死亡したことを知った。  いままで目の前にいた元希は何者だったのか……そのときの彼女にはそこまで考える余裕すらなかった。愛する息子の死に悲しみ狂った彼女は、そのまま自宅を飛び出し、自宅前を走行していたトラックと接触。即死だったらしい。  残された旦那さんの悲しみは深いだろう。ひとりの女性の身勝手な事情により、愛する妻と息子の両方を奪われたのだから。だが、その悲しみに反して、愛美から謝罪の言葉はまだ述べられていないようだ。 「ネグレクトを受けていたらしいです」  刑事は、ゆっくりと話し始めた。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加