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「母親からも父親からも、愛美はいないものとして扱われていました。その後、愛美は施設に保護されることになるのですが、学校でも孤立していて、仲のいい友達も少なかったとか……人に構ってもらいたくて万引きなどの犯罪に手を染めることもあったそうです」  "万引き"というワードは普段の愛美のイメージからはかけ離れて思えたが、今回垣間見えた愛美の狂気を鑑みると、そういうことをやっていてもおかしくないかもしれないと思ってしまった。  おそらく、愛されたかっただけなのだ。  両親や友達、周りの人間からの愛に飢えて、"愛される"ことについて人一倍執着が強かったかもしれないし、保育士になったのも愛に触れたかったからかもしれない。 「まぁ、いずれにせよ人を殺した罪は拭えませんがね」  刑事の言葉が刺さる。 「そう、ですね……」  恵梨香は俯いた。だが同時に、もし彼女に手を差し伸べてくれる誰かがいれば、事態は変わっていたのではないかとも考えてしまった。すると一気に複雑な気持ちになり、何も言えなくなってしまった。深く考え込む恵梨香を見た刑事は、軽く咳払いして話題を変えた。 「次に、棚田悦子さんの件です」  これも決していい話題ではなかったが、一連の事件の説明をするためには避けて通れない。恵梨香は、刑事の話に耳を傾けた。 「棚田博之の骨が見つかったことで、我々は妻である悦子さんに事情聴取を行いました。すると、悦子さんは夫の博之さんの殺害を認め……」 「そんな! ちょっと」 「話を最後まで聞いてください」  恵梨香は話を遮ろうとしたが、刑事はそれをすかさず制した。 「悦子さんは殺害を認めている。だが、女性ひとりで男性の遺体を運びバラバラに遺棄することは物理的に不可能です。キッチンからは毒物が発見されましたが、殺害後の死体処理について供述は二転三転してます……」  刑事は一度伸びをして、拳を天に突き上げた。 「そんなわけで、悦子さんを犯人と決め付けるにはまだ待ったがかかっている状態です。これからは共犯者の可能性も視野に入れながら……」 「だから言ってるじゃないですか?」  刑事が言いよどんだところで、恵梨香は素早く口を出した。 「悦子さんはやってない」  これだけは譲れない。  たしかに悦子には殺意があったかもしれないが、実際に殺したのは英昭に化けた英斗である。  恵梨香は刑事をまっすぐ見つめた。
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