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「あなたも気付いてますよね? 悦子さんを犯人にした場合……いや、すべて人間がやったことにした場合、辻褄が合わないって……」  恵梨香と目が合った刑事は、困った顔でボサボサ頭を掻いた後、ふたたび手すりに寄りかかって遠くの景色を眺めた。 「たしかに……今回の事件では不可解なことが多いです。死亡したはずの人間が我々の前に現れたり、保育園にいたはずの愛美がなぜか数キロ離れた英昭さん宅で発見されたり……まるで食い散らかされたみたいにバラバラに人骨が見つかったのも気になりますし、英昭さん宅の壊れ方も尋常なものではありませんでした。とても人間がやったとは考えづらい」 「じゃあ……」 「しかし」  刑事は鋭く言葉を発した。その間も、視線はずっと遠くの方に向いていた。 「"全部怪物の仕業です"と結論付けるわけにはいかない……それを認めてしまったら日本の警察は終わりですよ」  木々が風に揺れている。その音を聞きながら、恵梨香はゴクリと唾を呑んだ。 「じゃあ、瑠衣ちゃんはどうなるんですか?」  ずっと目を合わせない刑事に、恵梨香は問いかけた。悦子が逮捕されたという知らせを受けて、恵梨香はずっと瑠衣のことが気になっていた。あの後、身よりのない瑠衣は施設に預けられひっそりと暮らしているそうだ。いまの時点では何も問題ないかもしれないが、彼女が今後学校に通い、社会に出るようになったとき、間違いなく"母親が父親を殺した"という情報が付いて回ることになる。 「悦子さんは無実です……」  恵梨香はもう一度刑事に告げたが、刑事はピクリとも動かずに景色を眺めていた。それに少し苛立ちながら、恵梨香は続けた。 「分かってください……瑠衣ちゃんだけは守りたいんです……」 「では野放しにしろと?」  刑事はゆっくりと恵梨香の方を向いた。 「殺意を肯定してる人間を見逃せと……あなたはそう言ってるんですか?」  こちらに向いた刑事の目は、相変わらず鋭かった。恵梨香は息を呑み込み、刑事から視線を外した。 「それは……」  言いよどんでいると、刑事が畳みかけるように口を挟んだ。 「じゃあ聞きますが、いまの悦子さんは、果たしてあなたの知ってる悦子さんでしょうか?」 「え……?」  おどけた恵梨香を横目に、刑事は淡々と語り始めた。
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