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三浦先輩も男前
「姉と、結婚するんですか?」
親や墓の面倒を三浦先輩と見ると言ったので、そうなのかと訊ねた。
「にいちゃんと呼べよ」
赤い顔をして言う。何だか嬉しくて上目遣いで見て笑うと、ニコッと笑い、
「俺も〝姫野〟になる」
と言う。どういう意味だろうかと首を傾げた。
「姫野に、婿養子に入る」
え゛っ!?
驚き過ぎて椅子からずり落ちそうになる。
「だから、櫻庭と幸せになれよ」
家の事は気にせずに、陸斗さんと一緒にいさせてあげたい、と姉と三浦先輩で話したらしい。
「でも、三浦先輩だって、〝三浦〟は…? 」
「あれ?知らなかったっけ?弟がいる。メッチャ、優秀な弟。俺なんかより弟に期待してるから親、別にいいんだよ、三浦じゃなくなっても」
笑いながら眉を上げた。
「お互い、優秀な姉弟持つと、切ねーな」
な、といつもの様に笑ったかと思ったら、少し黄昏た顔をした。
「高校のインターハイ直前に、怪我して出れなくなった時、グラウンドのトラックに座り込んでたら、黙って櫻庭のヤツが隣りに座ってな… 」
遠くに目を遣って、記憶を辿るようにしてポツリポツリと話す。
「なぁーんも言わねーで、ただ隣りにいるんだよ。何かこっちが気ぃ遣ってよ、インターハイ、頑張れよって声掛けたら、『お前の分も背負って跳ぶ』なんてよ、カッコいい事言いやがって、で、優勝だろ?カッコ良すぎんだろって思ってよ、神様って不公平だよな、ってあの時は思ったよ」
何だか切なくなって、僕は目を伏せた。
「優勝したらしたで、三浦のお陰だって、滅茶苦茶な笑顔で言いやがってよ。三浦の分も背負って跳んだからだって、『真っ直ぐな瞳』って、こういう目を言うんだろうな、って櫻庭の目を見て思ったよ。何か、マジで俺が優勝させてやったみたいな気になったな、あん時」
ふふん、と三浦先輩は笑った。
「同性愛者で色々辛い事もあっただろうよ、幸せになって欲しいじゃん、茜の大事な弟のお前とな」
最後まで僕の目は見ずに、三浦先輩は話した。
嬉しさと感謝で胸がいっぱいになる。
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