男前なお姉ちゃん

1/2
692人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ

 男前なお姉ちゃん

「蒼生がね、家を出て誰かと住むって言うのよ!」 ギャンギャンと母親は続ける。父親はうんざりした様にリビングのソファーへ居場所を移した。 「いいんじゃない?独り立ちさせたら?」 姉の言葉が意外だった。母親と一緒になって『あんたには無理だ』とか『彼女、連れて来い』とか言って、大反対をすると思っていた。 「だけど、茜…」 姉の言葉に、母親の勢いが弱まる。 「好きな人と住むんでしょう?いいじゃない」 「だから、だったら連れて来なさいって言ってるのよ、蒼生は長男なんだから」 ふぅーっとため息をついた姉が、呆れた顔をした。 「長男、長男ってさ、大した財産があるわけでも無いのに言われてもね」 僕の顔を見て、「ねぇ」と眉を上げた。 どうしたんだろう、お姉ちゃん、と思う。 「それはそう、だけど…」 ごにょごにょと母親が口籠る。両親にとって、姉の言う事はいつも一番だった。 幼い頃から優秀で、僕が物心ついた頃には看護師になると決め、国立大学の看護科を卒業した。医師にもなれる位の成績だったが、看護師になると決めた姉はそれ一本で進んでいた。それ故、僕は到底頭が上がらなくて、いつも論破されてしまうのでとにかく姉が苦手だった。 ジッと僕を見る姉の視線から目が逃げる。 「親の面倒とか墓の事とか、そういう事なら、尚樹と一緒に見るから蒼生を自由にしてやってよ」 え?三浦先輩と? それに、僕を自由にしてやってって? 「櫻庭さんと暮らすんでしょ?」 唐突に姉に言われて、驚く。三浦先輩だってまだ知らない事だ、それに僕達の事は姉には黙っていてくれている、ああ見えて律儀な三浦先輩だ、姉が知っている筈は無かった。 「誰?櫻庭さん?彼女?紹介しなさいよ」 母親の顔が一変、嬉しそうになる。 「彼女じゃないわよ、彼氏?恋人、男よ」 サラリと姉は言った。 なっ!何も今、そんな事言わなくてもいいじゃないか!と肝が冷えたが、姉の援護射撃に任せようと思った。 「えっ!?男っ!?」 母親が飛び上がって驚き、気に留めてなかった風の父親も立ち上がって僕を見た。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!