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男前なお姉ちゃん
「蒼生がね、家を出て誰かと住むって言うのよ!」
ギャンギャンと母親は続ける。父親はうんざりした様にリビングのソファーへ居場所を移した。
「いいんじゃない?独り立ちさせたら?」
姉の言葉が意外だった。母親と一緒になって『あんたには無理だ』とか『彼女、連れて来い』とか言って、大反対をすると思っていた。
「だけど、茜…」
姉の言葉に、母親の勢いが弱まる。
「好きな人と住むんでしょう?いいじゃない」
「だから、だったら連れて来なさいって言ってるのよ、蒼生は長男なんだから」
ふぅーっとため息をついた姉が、呆れた顔をした。
「長男、長男ってさ、大した財産があるわけでも無いのに言われてもね」
僕の顔を見て、「ねぇ」と眉を上げた。
どうしたんだろう、お姉ちゃん、と思う。
「それはそう、だけど…」
ごにょごにょと母親が口籠る。両親にとって、姉の言う事はいつも一番だった。
幼い頃から優秀で、僕が物心ついた頃には看護師になると決め、国立大学の看護科を卒業した。医師にもなれる位の成績だったが、看護師になると決めた姉はそれ一本で進んでいた。それ故、僕は到底頭が上がらなくて、いつも論破されてしまうのでとにかく姉が苦手だった。
ジッと僕を見る姉の視線から目が逃げる。
「親の面倒とか墓の事とか、そういう事なら、尚樹と一緒に見るから蒼生を自由にしてやってよ」
え?三浦先輩と?
それに、僕を自由にしてやってって?
「櫻庭さんと暮らすんでしょ?」
唐突に姉に言われて、驚く。三浦先輩だってまだ知らない事だ、それに僕達の事は姉には黙っていてくれている、ああ見えて律儀な三浦先輩だ、姉が知っている筈は無かった。
「誰?櫻庭さん?彼女?紹介しなさいよ」
母親の顔が一変、嬉しそうになる。
「彼女じゃないわよ、彼氏?恋人、男よ」
サラリと姉は言った。
なっ!何も今、そんな事言わなくてもいいじゃないか!と肝が冷えたが、姉の援護射撃に任せようと思った。
「えっ!?男っ!?」
母親が飛び上がって驚き、気に留めてなかった風の父親も立ち上がって僕を見た。
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