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僕達、になる
ドックサロンはそのままで、毎月決まった金額を別れる奥さんの実家にお返しし、海くんを陸斗さんが引き取る事で、離婚が成立した。
理子さんが求めれば、いつでも海くんに会わせると約束をして。
✴︎✴︎✴︎
「これからは、おとうさんとあおちゃんとずっといっしょなの?」
嬉しそうに海くんが、陸斗さんに訊いている。
いつの間にか『おとうさん』と言えていて、成長がちょっと淋しい。
「ああ、ママにも、いつでも会えるぞ」
満面の笑みで。海くんを見ていた。
「ここがあおちゃんのおへやだって!」
三人で暮らすマンションの部屋に来た。来週には引越しをする。
2LDKの部屋。
玄関を入ると廊下を挟んで左右にそれぞれ部屋があり、奥には広めのリビングダイニングキッチン。今のアパートに比べたら驚く程の広さと言っていい。
一部屋を僕の部屋に充てがってくれた。もう一部屋は陸斗さんと海くんの寝室。成長して海くんだけの部屋にする時には、僕の部屋に陸斗さんが来ると言う。
陸斗さんと同じ部屋に早くなりたい、でも海くんの成長は嬉しくもあり淋しくもある、とても悩ましい。
「ぼくもあおちゃんとおなじへやね」
にこにこ笑って僕と陸斗さんを見るから、二人して黙り込んだ。
「あ、海はお父さんと一緒の部屋だ」
苦笑いしながら陸斗さんが言う。
「えー、あおちゃんといっしょがいい!」
頬をぷくっと膨らませて口を尖らせた。
「あおちゃんは、お家に帰ってからもお仕事があるんだよ。邪魔しちゃ駄目だろ」
海くんを納得させる為、それらしい事を言った。
「そうなの?」
口を尖らせたまま僕を見て訊くので、
「うん、ごめんね」
と少し顔が強張って答える。夜は僕と陸斗さんの部屋になるから、などと思い顔が赤らむ。
「ひろいねぇ〜!ママのおうちみたい!」
陸斗さんと結婚した時に住んでいたマンションに、今も海くんの母親は住んでいる。陸斗さんが別居して家を出た事は、海くんには理解出来ていないのかも知れない。
まだ何の家具もないだだっ広いリビングで、海くんがはしゃいでいる。
「もうすぐだな」
陸斗さんが僕に微笑んだ。
「はい、楽しみです」
海くんに見つからないように、後ろで手を繋いでぴったりと身体を寄せた。
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