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ダリウスはリセの、膝の上のシナモンロールが手つかずなのに、
気が付いたようで
「どうした、食わないのか・・」
リセはうつむいて言った。
「私は食べるのが遅くて・・申し訳ございません」
それだけではない、ネコ舌だ。
「かまわない・・ゆっくり食べろ、今日は時間がある」
ダリウスは湖を見ながら言った。
「ありがとうございます」
リセはそう言って、シナモンロールを両手に持って、一口かじった。
本当は・・リセも空腹だったのだ。
口内にシナモンの香りと、アイシングの砂糖の強烈な甘さが広がる。
そして苦いコーヒーが、その甘さを和らげてくれる。
<マリアージュ>
全く異なる組み合わせなのに、なんてすばらしいのだろう。
リセはちょっと感激して、リスのように、もそもそ食べ始めた。
ダリウスはずっと、湖を見ていた。
水面が風に揺れ、水鳥たちが連なって動いていく。
リセが食べ終わるのを待っていてくれた。
この人の優しさ、気づかい・・・
リセはシナモンの香りの中で考えていた。
この二人だけの共有する時間は・・・
静謐で穏やかな気がした。
が、今は勤務時間なのだ。
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