モテ子とジミ男

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モテ子とジミ男

(許さない、許さない!) 私は最近ずっとイライラしている。 中学高校と告白された事は何度もあるけど、理想の王子様と結ばれたかった私は全て断っていた。 (なのに、なのに!!) 「青木ーーーっ!!」 たまらず学校の屋上で叫ぶ。 (青木なんか、私の王子様じゃない!) 勉強もスポーツも普通 段差もないのにつまづく 頼まれたら嫌と言えないお人好し 自信がなさそうな話し方 センスのない寝癖 (でも笑った顔は良いかも) (いやいや、別に普通でしょ)  (サラサラの前髪は可愛い) (いや、私の方が可愛いし!) こんなノリツッコミももう飽きた。 キッカケは些細な事だった。 落ちていた消しゴムを優しい私が拾ってあげようとした時、少女漫画のように私の指が誰かの指に触れた。 慌てて引っ込んだ指の後を追うと、薄茶色の瞳と目があった。 「ご、ごめん!」 透き通った白い肌を赤くしながら青木が言った。 消しゴムを渡してあげると、子犬のような上目遣いをしながら遠慮がちにはにかみながら笑い、 「ありがとう」 と言った瞬間、胸を掌底されたかのような衝撃を受けた。  (ぐほぉ!) 全神経を顔に集中させ、乱れた顔と心を必死で繕いながらかろうじて言えたセリフが 「うん」 だけだった。 「へへ」と柔らかい笑顔をして、私の隣でまた授業を受け始める。 理想の王子様しか探してこなかった私にとって、青木はただのモブクラスメイトだった。 はずなのに! 遠慮がちに笑う顔も、化粧した私より綺麗な肌も、触り心地が良さそうな髪も、細くて白い指も、優しい薄茶色の瞳も、 「…全部好き」 とうとう白状してしまえば、溢れ出る感情が止まらなくなる。 もっと青木の事を知りたい。 触りたい。 独り占めしたい。 私だけを見てほしい。 思わず心の声が漏れる。 「私をこんな気持ちにさせるなんて、ほんと許さない」 (でも、でも…) 「青木が好きーー!」 放課後誰もいなくなった校庭に向かって思いの丈を吐き出し、 少しだけスッキリした胸を撫で下ろす。 (いつか、青木と一緒に帰れたりするのかな?) 呼吸が落ち着き冷静になれた私は、ふと足元にあるプリントに目が止まった。 宇佐見まどか 数学35点 「!!!!!!」 「な、なな、なんでこんなところに…」 プリントを拾い上げようとした時、ようやく背後に人がいる事に気づいた。 恐る恐る振り向き、足元からゆっくりとその姿を確認する。 「あ、青木…」 いくら全神経を集中させても、心も顔も繕えない。 全身の毛が逆立つ。 「どこから聞いて…」 「あの、さっき受け取ったのがテスト用紙だったから、届けようと思って追いかけたんだ。そしたら宇佐見さんが僕の名前を叫んだから、びっくりして用紙を落としちゃって…」 辿々しく成り行きを説明する。 そう。いつものように補修を受けて帰ろうとした時、先生から頼まれたアンケート用紙を集めていた青木に声をかけられた。 慌てながら探しているうちに、手伝ってくれようとした青木の指と私の指がまた重なって…。 つい堪らなくなって、乱暴に紙を押しつけ走り出してしまったのだった。 まさかのテスト用紙、しかも赤点。 それよりなにより誤魔化せないほどまるっと告白全部聞かれちゃってるし!! 言い訳も出来ない状況に顔を赤らめて涙目で俯く事しか出来なかった。 そんな気まずい沈黙をはっきりとした口調で破る。 「放課後によく先生の頼み事を引き受けていたのは、いつも補習している宇佐見さんといつか一緒に帰れたらな、って思ってたからなんだ」 ゆっくりと顔を上げると、力強く真っ直ぐな薄茶色と目が合う。 「もっと宇佐見さんと話したくて、宇佐見さんの事が知りたくて、僕の事ももっと知って欲しくて」 「えと、それって…」 もう何が何だかわからない。 色々起こり過ぎて頭も体も心も付いていけない。 きっと今私はもの凄い顔をしていると思う。 そんな私に更に追い打ちをかける。 「放課後は補習を待つんじゃなくてデートがしたいから、今度一緒に勉強しようね、って事」 こんなセリフ、あの青木が言えるなんて!  硬直して身体が動かない私にサラサラの前髪を細い指でぐいっとかき上げながら近づき、少しだけ膝を曲げて目線を合わせる。 「次赤点取ったら"ゆるさない"からね」 子犬のような上目遣い、けど今まで見た事のない意地悪そうな笑顔に (ごふぉ!) 2度目の掌底。 こんな顔も出来るんだって、更に身体が熱くなった。 一向に微動だにしない私に、 「へへ」と見慣れた優しい笑顔をして遠慮がちに同意を求める。 「一緒に帰ろう?」 もう何も繕う事をせず、真っ赤な顔と笑顔で返す。 「うん!」 私だけの王子様と、ようやく一緒に帰ることが出来る。 ―その後私は何度も掌底を受ける事になるが、私のプライドが許さないので詳細は絶対言わない!!
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