第七章

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第七章

 仲原由美は彼氏に抱かれていた。  いつも通りラブホで抱かれているのに得られるのは果てしない虚しさだけだった。抱かれても熱を抱けない。彼は必死に本当に必死に息子を勃たせて私に入れているのに、私はその光景を笑っちゃうくらいに冷めた感情で眺めていた。  私はもうこの人を愛していない。  すぐに暴力を振るうし、顔を殴る癖に急に優しくなってごめんね、愛してるとかウケる。優しくない癖に優しい振りなんかしちゃってさ。それに、本人も気付いていないもんだから男ってバカだなって思う。それなら、無性別者に抱かれている方が好き。あの子達は性別がないから男に抱かれている屈辱よりも、私が抱いていると言う征服感がある。私はあの子達に入れているんだと言う征服感が心地いい。誰も征服されていい気分はない。  私はあの子達の首を何度も絞めた。  ネットで知り合ったあの子達の首を絞めると濡れそうなくらいに興奮した。心臓がバクバク鳴ったし、それにそれに、女として初めての征服感に興奮した。その幸福感は服従させたという達成感と満足感だった。  こんなこと人としてクズだと思う。でも男は多かれ少なかれこんな感情を抱いている。  女を抱いて征服したいオスの感情が太古から現代まで根付いている。その感情は女には分からない。そう思って居たけど、コレは確かに興奮する。私は女でありながら無性別者を征服している。  彼らは(そう、この言い方すら無性別者には当てはまらない)女よりも女らしく細い腕とアルビノのような透き通る肌をさらして私すらも誘惑する。  「あなたが悪いのよ! あなたが私を誘惑するから!」  「……あ、かっ! ちが……う」  必死に呼吸しようとする無性別者を本当に死にそうなくらいまで首を絞めた。  裸の無性別者の身体は本当に男とも女とも判らない。胸はないけど女に入れるアソコもないし、ただ性器とすら言い難い場所に私は指を入れた。  声すら出せない位に感じている無性別者に私は男のような興奮を得た。しかし、いざ私が男に抱かれるとそんな興奮は得られない。征服者と被征服者の間には大きな溝がある。きっとこれは埋まる事がない溝だ。  彼は私を物のように扱わない。しかし、それは昼間の話しであり夜は違うのだ。  昼の彼と夜の彼ではきっと人間が違うのだ。それは人格ではなく本性という意味で彼は昼と夜で別人なのだ。昼は私を宝物のように扱うのだが、夜は私の首を絞めて、その癖に泣きそうな顔で私を見るのだ。泣きたいのは私の方なのに、何故あなたの方が泣きそうなのか私には理解出来なかったが、  「愛してる由美……」  泣きながら言うそのセリフを私は映画かドラマの下手くそな台本のように感じていた。きっと彼は本気で私を愛しているのだろうけど、私はもう彼を愛していない。昼と夜で人が違う彼を最初は恐怖していたけど、今はもう恐怖どころか、あぁ、またかって感情でしか抱かれていない。それは諦観か何かなのかもう私には分からない。  私の中にあるのは、あの無性別者の姿だけだ。  分かっているきっとあの無性別者は私を愛していない。そして、私も本当の意味であの子を愛していない。けど、偽りでも何でも良い、私はあの子を抱きたかった。  こんな優しくもない。暴力を振るう男よりもあなたの方が良い。  お願い私を愛して!!  私は彼に抱かれている。  首筋にキスされながら次第に胸にお腹にアソコに。でも感じない。演技はした。そうしないと殴られる。お腹ならまだいいけど顔は嫌だ。だから感じたように演技したら彼は満足した。アソコは濡れていない。あなたの愛撫にはもう感じない。あなたの言う愛しているはいつも自分に言っているみたいに感じる。あなたが愛しているのはあなたを愛していると勘違いさせてくれる女性だけ、私は違う。あなたをもう勘違いさせない。  私は灰皿を握る。彼は気付いていない。私に入れるので必死だ。  私は殴った。もうこんな屈辱からは征服からは解放されたい。  もう元号すら変わった。世界は数十年前から性別に対する認識を変えつつある。  私は最初拒んだ。だけど強引に犯したのは彼だ。これは正当防衛だと思う。私は悪くない。  そう思った。軽く殴っただけだったはずなのに彼は頭を押えながら悶えていたかと思うと急に動かなくなった。死んだかもしれない。しかし、確かめる勇気が起きなかった。確かめて本当に死んで居たら怖い。そしたら私は犯罪者? 最初に汲み上げていた筈の言い訳が言い訳する前に崩れる。  「いや、いや、いやぁ……」  私は急いで服を着て部屋から逃げ出した。  スマホであの子に連絡する。  あの子に早く会いたい。あの子を抱いていると安心する。この世のすべてに怯えていながら、それをあざけるような不思議なあの無性別者に私は早く会いたかった。
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