第九章

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第九章

 「おかえり、アイ。また朝帰り?」  妹の玲が心配そうに僕に言う。時計を見ると午前四時だった。  「早起きだね」  「寝てないから、そっちは」  「寝てないけど寝たよ」  「すごい最低な返しだね」  「うん……、自分でも吐き気がするよ、てか吐く」  僕はトイレに駆け込んだ。僕はよく吐き気に襲われる。医者からはストレスが原因だと言われた。そのせいで強い精神薬を処方されたのだが依存性があるのでどうしても耐えられない時だけ服用してくださいと言われたので、僕は言われた十倍の量を飲んだ。吐き気は収まったけど、すぐに無気力になった。心は安定したけど、体がだるくてそのままトイレで寝てしまおうかと思ったのに「アイ、起きて。そんな所で寝ちゃダメよ!!」と言うので、僕は妹に促されるまま自室に入った。  僕の部屋は暗い。  明るいのが嫌いでカーテンは閉め切っているけど、休みの日は玲が強引に部屋に入って来て、カーテンを開けるので僕は眠い目に強い日光を浴びて、吸血鬼のように苦しむ。  玲が言うには僕の欝々とした性格は太陽を浴びないからだと言う。その理由を説明されたけど、僕にはどうでも良かったから覚えていない。  「ほら、寝て!」  「うん……」  玲が僕に毛布を被せる。その温もりが心地良くって僕はすぐに眠りについた。  人肌が恋しい時に感じる毛布の温もりがわずかに僕を安心させた。微かに頬に温かい滴が伝うのを感じたけど、それが自分の涙だと気付く前に僕は眠りについた。  眠って居る逢の顔が好きだ。  女の子みたいで綺麗で整った顔を見ているとキスしたくなるけど逢はそれを嫌がる。女の私にキスされるのが嫌だと言う癖に女の人に抱かれるのが好きで、男の人に抱かれるのを怖がる。けど、たまに男と付き合おうかなって言うのだから、逢の性別は流動的だ。  逢はよくピアスをする。  痛くないの? と聞くと注射と同じと言う。逢は注射の時ほとんど痛みを感じない。無痛症ではないらしい。痛みは確かに感じているようだけど他の人よりも鈍いようで、「そんなに痛がるものかな?」って本気で不思議がられた事がある。逢は特に耳の痛みに鈍感で、痛くないからよくインダストリアル【軟骨辺り】に刺す。そこが痛みをあまり感じないらしい。ちなみに私もやってみたら結構痛かった。嘘じゃん。あと逢は女の子の格好をよく好む。女子の制服が好きではない癖に女子の格好をよくする。理由を聞くと可愛いからって言う。でも普段の休日は男子の服装で、よく分からない。  部屋も綺麗にしてるけど女の子らしくないから、性格的には逢は男子だと思う。  この部屋にはゲームもテレビもラジオもない。逢は無欲だ。その癖に化粧品には凝る。逢は肌に気を遣う。なら、生活見直せって思うけど、逢は人肌がないと安心しないから仕方ないと思う。  「レイ……レイ何処?」  逢がうなされている。私は逢の手を握った。  「ココに居るよ」  「離さないでね……」  「うん」  私がそう言うと逢は安心したように静かに寝息を立てる。  逢は可愛い。本当に可愛い。  私は逢いの唇にキスをした。  「愛してるよ……おやすみ」  私は逢が好きだ。  玲にキスされる夢を見た。  玲は僕の味方だ。  世界中が敵になっても玲だけは味方で居てくれるって信じている。玲が居なかったら僕はとっくに死んでいたと思う。  だから僕は付き合っている安達さんよりも玲と死にたいと思った。  もちろん安達さんは好きだ。可愛いし、素直だし、素敵だと思う。でも不安になる。安達さんよりも玲の方が安心する。  家族だからかもしれない。  生まれた時から一緒だったし、一番の理解者で死にたい相手だと思った。  安達さんは……よく分からない。  好きだけど一緒に生きたいも死にたいも分からない。  でも、抱かれた時は嬉しかった。  愛されているんだと思った。  でも虚しかった。  コレが本当の愛だと思えなかった。  本当の愛が何かは知らないけど、僕は誰かに愛されたかった。  ……誰か愛して……。
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