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画面を確認すると、同じクラスの吉川さんからメッセージがきていた。
『朝井さん、八月十日って空いてる?』
吉川さんは穏やかで優しく、クラス内で目立っている人達ともまた違う、独特な立ち位置にいる。吉川さんを悪く言う人なんていないし、全員と等しく仲が良い印象だ。
でも、何故接点がない私の予定なんか聞くのだろう。強いて言うなら、私がクラス全員分のノートを職員室へ持って行く際、まだ板書しきれていなかった吉川さんを待ってあげたときぐらいだ。
首を傾げながら『空いているけど』と返す。
『だったら、近くの花火大会に行かない?』
予定は空いているものの、すぐに『行く』とは書けなかった。
私が文字を見たまま硬直していると、吉川さんから、まるでこちらの様子が分かっているかのようなメッセージがくる。
『突然でごめんね。返事はいつでも良いし、行きたくないって思ったならそのままでいいから』
吉川さんはみんなに好かれている。友達もいる。私が行かなかったとしても、一緒に行く人ぐらいいるだろう。むしろ、そっちの方が吉川さんは楽しい時間を過ごせるのではないか。
それなら、断るというのが一番正解の選択肢なのかもしれない。
けれど、どんなに断りの文章を考えても、その文字を打つ気にはなれなかった。
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